雑学
ヴァイオリンにフレットがない理由
フレットとは、ギターの柄に、仕切るように付いている出っ張りことである。
フレットがあると、音の高さがフレットの位置で決まるので、音程を取るのが楽になる。
ところで、音の高さって何だろう?
人間は、音の周波数の違いを音の高さの違いとして感じる。
そして、周波数がだいたい下図のような比率で並んでいるとき音階として感じる。
ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド
×R×R ×R×R ×R ×R×R ×R×R ×R×R ×R
【注】R は、R を12個掛けたら 2 になるような数。
しかし、上図のとおりに弾くと、和音を受け持ったとき、きれいにハモらない。
例えば、ドミソの和音を受け持ったとき、周波数はほとんど4:5:6なんだけれど
微妙にずれていて、きれいにハモらないのだ。
ヴァイオリンでは和音を受け持つことが非常に多いので問題である。
というわけで、正確には、下表のような比率で並べないといけない。
ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド
72 80 90 96 108 120 135 144
2音間の比率を調べてみると、以下のようになる。
ド:ソ , レ:ラ,ミ:シ,ファ:ド ‥‥ 2:3
ド:ファ, ミ:ラ,ソ:ド ‥‥ 3:4
ド:ミ ,ファ:ラ,ソ:シ ‥‥ 4:5
レ:ファ, ミ:ソ,ラ:ド ‥‥ 5:6
微妙にずれているのは、レ:ソだけである(3:4から微妙にずれている)。
「それなら、この比率でフレットを付ければいいじゃないか」と思うかもしれない。
ところが、周波数を上表の比率で固定して並べてしまうと、
曲の途中で転調したとき、悲惨なことになってしまうのだ。
例えば、ソが主音の調に転調すると、
ドから並べたときと同じ比率でソから並べなければならず、
だいたい下図のようになる。
ソ ラ シ ド レ ミ #ファ ソ
×R×R ×R×R ×R ×R×R ×R×R ×R×R ×R
ファ以外は転調前の音と共通である。周波数もそうなので下表のようになる。
ソ ラ シ ド レ ミ #ファ ソ
108 120 135 144 160 180 ? 216
2音間の比率を調べてみると、ソ:レが2:3から微妙にずれている。
ソとレは、この調では最も重要な和音の構成要素である。
その和音がきれいにハモらないのは致命的である。
ヴァイオリンにはフレットがないので、周波数を微調整することができ、
どんなに転調しても完璧にハモらせることができるのだ。
それだけではない。
メロディーを弾くとき、最も理想的な周波数はメロディーの動きに
依存するらしいので、そういう場合にも都合がいいわけである。
ヴァイオリニストにとっては、フレットなんて邪魔なだけなんですねえ。(^_^)