本書は、昭和39年に谷中全生庵で行われた清風仏教文化講座の講義を元にまとめられたものである。
「もっともすぐれた仏教入門書は何か?」と聞かれたら、私は一も二もなく本書をあげる。講演をもとに書かれたものであり、色々な話に脱線しながら、釈尊の生涯から、弟子たちのこと、「四諦」「八正道」「縁起」「無我」といった仏教の基本問題が実生活に即してわかりやすく解説されている。
たとえば、仏教の最大の難関ともいえる般若心経の「色即是空」については次のように説明されている。(以下引用)
自分の生き方を一度徹底的に否定してみるとどうなるか。もう生きているのもいやになるであろう。しかし、徹底的に自分を否定しきってしまうと、死ぬ力さえもなくなってしまう。(中略)
そういうギリギリの状態に自分を追い込む、また追いつめられると、どうなるか。そのとき、もしその人に信心というものがあったら、その信心が、信じられないような力を発揮してその人をひっくり返すのである。くるっと体が宙で一回転したと思うと、なんともいえず大らかな、ふわりとした世界に抱きとめられるのである。(以上引用)
「信心」という言葉が引っかかるかも知れない。私はこれを「天地自然への信頼」と読み替えて理解している。自分の力で生きているのではない。目に見えぬ大きな力に生かされているのだ。それがなければ呼吸一つ、心臓の鼓動一つないのだ。その力に対する信頼を筆者は信心と表現しているのだと思う。
何回読んだかわからないが、何回読んでも新しい発見がある。