そりゃあ、最高傑作は人によっては「貧乏は正しい!」かもしれませんし「桃尻娘」かもしれませんし「源氏物語」かもしれませんが、
この「89」が最高傑作だと思うのは、この本の背景に流れる時代、と言うものだと思います
つまり、1989年と言う年は昭和天皇が死んで日本が確実に、大きく変わっていく、そういう年だったんですね
「天皇なんて関係ないや」って言う人がいるけど、89年には手塚治虫も死ぬ。
「漫画なんて関係ないや」って言う人がいるけど、89年には美空ひばりも死ぬ
日本の天皇と歌謡曲の女王と漫画の神様が死に、若い女性のシンボルだった中森明菜は腕を切り、若者のヒーロー的存在だった松田優作も死に、日本の経営のシンボル的な松下幸之助も死に、消費税が導入され、
総理大臣が1年の間に3人もつとめ、自民党が選挙に負け、女の時代ともいうべきマドンナ旋風が起こり、宮崎駿が幼女を4人殺して逮捕され、ベルリンの壁が崩壊し、バブルがはじける
そういう「ひとつの時代の終わり」と言う時に最高の知性を持つ橋本治は何を考えたのか。未来をどのように見ていたのか。一つ一つの出来事の意味と今後を的確に表現してくれている。この本に書かれた文章は現代でも十分通じる内容です。
橋本治はあとがきでこう書いています「この本がどういう本かという事を一言で言うと、『これから先、政治家になろうとする人間がいるんだったら、ここに書いてあることを全部分かって、その上で‘自分が何をするべきか‘がはっきり分かっている人間じゃなきゃ嫌だ!』と言うことを要求する本です」
橋本治の考えを短い文章たちの総まとめで書かれており、読むと頭が何倍か良くなると思います
昔からいろいろな短編に触れて育ってきた人は、きっと本書のそれぞれの作品を読むたびに「懐かしさ」を感じたのではないだろうか。子供の頃読んでずっと心に残っている数々の短編。たくさんの思い出が浮かんでくる作品群だった。
本書を読み、考えた。最近、なかなか「良い短編」に触れていない。中編、長編ではそれなりの本に出会ってもいるように思うが、「これはずっと記憶に残るだろう」という短編に久しく出会っていない。
本書は、ピアスが良質な短編不足の現在に向けた強力なメッセージにも思える。「短いお話でも、人の心に残るということはこんなにすばらしいことじゃない」。そんなピアスの言葉が聞こえてくるようだ。