和書 467252 (29)

夕陽妄語〈第1輯〉 (朝日選書)

　第一に、的確で明晰な事実の指摘がある。事象の年月日・出典の明記が厳密で、曖昧さを排斥する姿勢が強固である。根拠を述べずに自分のいいたいことを勝手気ままに言っている軟弱な知性（テレビなどでよく見かける）とは、対極に位置するものである。

　第二に、徹底した言葉の吟味がある。ゆったりとして威厳があり、その中に情感の豊かさを込めながら、精妙な思考の流れを言葉に写しとる。その言葉をしっかりと読み解くこと自体が、大きな触発となる。聞き慣れた言葉遣い、見慣れた文章構成は、自分で考えることを放棄した思考停止人間の特徴である。加藤氏の文章を読むことは、思考停止に陥らないための基礎的訓練になるだろう。

　第三に、困難で深刻な問題を扱いながらも、一貫して流れる「静かな喜びと希望の感情」とでもいうべきものがあることである。生きていること、美しいものごと、敬愛すべき友人たち、恵みをもたらし続ける人類の先輩たち、加藤氏はそれらを決して忘れない。加藤氏は「聖人」を信じないが、「すばらしい人」の存在を信じなかったことはない。私にはそのように感じられる。

　夕陽のような厳たる存在感を示しながら、「まなこ」を曇らす虚無を晴らさんと獅子奮迅する。加藤氏という「縦横無尽の知性」が生み出す文章を読めることは、私たちの大きな喜びである。

夕陽妄語〈第2輯〉―加藤周一セレクション (朝日選書)

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