ほとんどすべての短編小説が性的欲求をためらいもなく満たそうとする若い女性たちの姿を描いています。書かれていることはかなり赤裸々。下半身から湧き出る性欲をむき出しにして、むさぼるほどに男を求め続ける女性の姿に、一部の読者は呆然とするかもしれません。
かといって、この本に書かれていることが身もふたもないことであるという印象しか与えないかと言うと、そんなことはありません。最後に付された短歌が、たとえそこに書かれていることがやはり臆面もなく性的な内容であっても、小説部分の趣とは対極をなしています。古風で雅(みやび)な日本の言葉がしっとりと胸に沈みこむ思いをします。
「絆創膏 何枚貼っても破瓜の傷 癒える間も無く 更に穿たれ」
「助手席に 押し付けられて柔らかに 犯されし我 少し震えて」
「一瞬で あの時になる一瞬で 準備が出来る私の牝(オンナ)」
エロスの奥深くにある小さな<心の疼(うず)き火>を、私はそこに見ます。まさに「えろきゅん」。どんな性的欲求にも、その背後に胸をしめつけるような切なさが隠れています。赤裸々であればあるほど、同時にその切なげな気持ちが前へ前へと張り出してくることを強く感じます。
本書は通勤電車内で頁を繰るのはさすがに憚れますが、自宅でこっそりとその不思議な切なさを味わうには悪くない、一風変わった書です。