(「固ゆでの卵」の意から転じて、冷徹・非情の意)文学上、感情を交えず、 客観的な態度・文体で事実を描写する手法。推理小説の一ジャンル。この手法を応用し、非情な探偵を主人公とするもの。」広辞苑より
「冷徹・非常」という概念が当てはまっているのかといえば、探偵が結構涙もろかったり人情家だったりするので、半熟卵作家といった方がいいのかもしれない。
彼の小説の舞台は、すすきのである。常に、そこを徘徊するアヤシイ探偵がホステス・チンピラ・やくざなどと渡り合うのである。北海道弁の会話がずっこけていてニヤニヤしてしまう。
東直己には、道内のタウン誌やバイク雑誌の編集者をしていた経歴があり、すすきのには滅法詳しいようだ。だからといってすすきのガイドブックではない。
この本は、すすきのの酔っ払いが些細なことから喧嘩になり、次から次へと殺人ゲームが続き、最後にはそして誰もいなくなったという話。ではありません。
全篇これ、すすきののあちこちで出会った酔っ払いの話だ。むろん“酔っ払い”には東さんご本人も含まれている。
人の失敗談ほど面白いものはない。笑いあり、しみじみありの「うひゃぽろ」エッセイ集。
しみじみ篇では、やくざが満員の映画館でスクリーンの真ん前で横になってしまった話がいい。映画は東氏は十数回見たという松本清張の『砂の器』である。
大団円、人を押しのけて一番前に陣取ったそのやくざ、ひじを枕に横になったまま、肩を震わせていたという。それを見ていた東氏、感動して大涙。
ぎゃはは篇は、女性と深夜タクシーに乗る東氏。触れなば落ちむ風情の女性の髪を撫ぜ今日のところは、と女性を家まで送る。女性が降り、自宅の住所を告げると喜劇の開幕。
「そんな遠くに住んでんですか?アズマさん?」
「くかかか!『いい香りがするね』ってかい?くかか」
「彼女の溜息!俺もあんた!聞いてて盛り上がった盛り上がった」「・・・」
もうひとつ、印象的薄野の風景として東氏が挙げた「深夜の小学生姉妹のバトミントン」には泣けた。
何度酔っても懲りない愚か者(ハイそれはわたしです)、と、その御家族が読むと癒されるかも。