著者は、その疑問点、論点を整理して、合理的な解をつなげ、
原古事記の存在、一般名詞としての「古事記(フルゴトフミ)」という
1つの仮説を提示している。
きちんとした論文としてまとまっているので、読みやすく、論旨がわかりやすい。
古代史関連の本をいくつか読んでいるが、ここまできちんとまとめているのは、
他に例がなく、見事である。
(多くは、著者の一方的な思い込みを紹介しただけで根拠を示さなかったり、
あっちこっちと視点がずれるので、論点の不明な作文が多い)
一貫性を保ちながら説として展開する様は
さながらミステリーのようである。
ここまで見事な仮説を提示されているにも関わらず、
残念ながら日本の学会は、真摯に答えていないようだ。
いくつかの批判に対する大和氏の回答を沿えているが、
ほとんどの批判は、愚にもつかない内容ばかりである。
別に著者の方を持つ訳ではないが、批判するなら読め、と言いたい。
学会のレベルの低さを物語る批判ばかりで、悲しい。
大筋は理解したつもりであるが、加筆の可能性のある点はどこかを
明らかにしてほしい。著者の偽書説は、加筆という偽書の部分と
原「古事記」をわけるべき、とする説である。
原「古事記」の資料性は失われるものではない、として認めているが、
認められない疑わしい箇所は、「序」のほかにどこがあるだろうか。
氏族の祖先については、どこが追加された箇所で、
大年神系譜の追加はどのような意図であろうか。
その点をもう少し明らかにしてほしい。
見事な完成度になってますので、上代文学を研究されたい方は
一度読まれることをオススメします。