恵子「えー、あの大酒のみでエッチでお調子もん、なんか雰囲気が中島さん似の?」
中島「ほっといて頂だい。フォールスタッフはウインザーの陽気な女房たちに恋をした。
”そのもっともよそよししい素振りにしたところで、胸のうちを探れば、私はサー・
ジョン・フォールスタッフのものよ、となる”やら、”いや、あの女がおれのからだ
を熱っぽく見つめる目つきときたら、太陽の光を集中するレンズのように、おれを焼
きつくすんじゃないかと思われたぐらいだぜ。”(第1幕、第3場)あらまむなしき
勘違い。」
恵子「ますます中島さんの生き写し。だけど女房たちにはその気は無くて、上手の演
技で懲らしめる。」
中島「三度も騙されちゃったのはフォールスタッフだからじゃなくて、恋した者の愚
かさから。恋人たちは感情の奴隷、理性の入り込む余地は無く。相手の態度に一喜一
憂、”行くべきか行かざるべきか”ハムレットより真剣に悩み、ふられたらどうしよ
うとか、男はとにかく行くっきゃないとか、デートの企画書寝ずに考え、空想につぐ
空想で仕事どころじゃありません。」
恵子「でも、フォールスタッフは財産目当てだったんじゃなかったっけ。」
中島「初めの動機の一つはね。でもほんとうは恋愛感情、二度目に騙されるときの言
葉は本心から言ったんだよね。”いや、奥さん、あんたの嘆き悲しむ涙で、私の苦し
みなどきれいに洗い流されてちまったよ。あんたの愛の真実なることを知ったからに
は、私もそれに髪の毛一筋劣らぬ愛をもって報いよう、それも、単なる愛の行為にお
いてのみならず、愛のあらゆる形式、礼式、儀式においてもな。”(第4幕、第2場)」
恵子「そう言われるとウインザーの陽気な女房たちはちょっと残酷な気がするわ。」
中島「恵子ちゃんはそんなことしないでね、おねがい。」
恵子「んー、時と場合によるわ。」
中島「そ。」