大塚末子さんの着物学院で秘書となり、その後着付け教室など、
さまざまな紆余曲折を経て、今はご自身で着物学校やお茶の教室を
運営されている山下さんは、東京山の手のご出身。
東京というと、幸田文・青木玉さん親子や、沢村貞子さんといった
下町育ちの先人の著作が有名だが、山下さんは同じ東京でもまた違った
「着物美学」を見せてくれる。
お茶人でもあるせいだろうか?
彼女の着物への造詣は、確固とした教養・文化に裏打ちされていて、
隙がない。
町家の着物道と対峙する、武家の着物道といった趣だ。
それだけに、自分にも、またおそらく他人にも厳しい人だと感じる。
語り口は時にかなり辛辣で、叱責されているような気がする。
考えてみると、最近の着物ブーム、「気軽に楽しみましょう」路線
は多いのだけれど、粛然として立ち向かう路線は少ない。
着物は趣味の一つとして、さまざまな束縛からほどけ始めてもいる。
けれども、実際に着物を知り始めると、それだけではすまない、
禁断の領域があることを感じる人は多いのではないだろうか?
面倒でややこしい、着物ならではのナニカを。
そのナニカは、すなわち伝統衣装としての着物のもう一つの顔でもある。
女の妄執を呼び覚ます時限スイッチでもある。
おそるおそる足を踏み入れてみると、これも実に興味深い。
美しい着物の陰にひっそりと隠された女たちの想い。
純粋と思うか、恐ろしいと思うか?
「きれいはきたない」を感じさせてくれるパンドラの匣。
そんな一冊である。