第一章は150年といいながら、明治へ続く抜かせない情報として、江戸時代の農業史を駆け足で概観します。
だから、最初の江戸時代の歴史の総復習な部分では、歴史嫌いの人は引いてしまうかもしれません。
でも、本当に大事な要素をピックアップしていて、上手にまとめてくれていると思います。とても参考になります。
その後、明治維新、産業革命、独占資本主義、戦時体制、農地改革、高度成長、そして現代へと、章立てて詳しく説明してゆきます。
グラフや図表なども豊富で、本当に多くの情報量を一冊にまとめてくれていると思います。
ただ、4人の執筆者の共著であるため、やはり多少の当たり外れはあります。個人的には20世紀前半の説明は
なぜ、と突っ込みたくなるような箇所が多々あり、説明不足の感がありました。
また、150年を300ページに詰め込んだ分、なかなか具体的な事象に触れることができず、抽象的な事象が
続くのも仕方ないでしょうが、例えば小作争議の具体例などがあればつかみやすかったと思います。
しかし、全体として、農業史を端から端まで概論を述べ尽くしてくれている感じで、わかりやすい本でした。
農学を学ぶ人は、幕藩体制下の構造や秩禄処分、松方財政、高橋是清の政策など、ある程度歴史学の知識が
必要になってくるので、ある程度詳しくやりたい人はもしかしたら日本史の教科書片手に、なんていうのもいいかもしれません
(私は文系から農学に転向したので、理系の方の歴史知識がどの程度かわかりませんが…)。
また、歴史学を学ぶ人は、近世(近代)以降の歴史を経済史的観点から捉えなおすことができ、有用だと思います。
この本で得た知識に具体的な事象をリンクさせながら肉付けしていけば十分な農業史の知識が得られるのではないでしょうか。
情報量が多くなかなかハードといえばハードですが、安心して読める良心的な本だと思います。