和書 492204 (341)
愚者の賦―万葉閑談
販売元: 集英社
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ライフワーク『萬葉集釋注』全十三冊完結を記念に刊行した単行本。すべて著者の萬葉学の背景に位置する文章を集めたもので、随想、書評、講演、萬葉秀歌百首の四編から成る。書名の本題『愚者の賦』は随想最後の文章の名に拠っている。著者の学問がなぜ“愚者の賦”なのかは、その文章の中に説かれている。
著者は『萬葉集』に限らず、ある対象の本質を捉えるためには、対象を隣人と見て「仲間入りする」態度(いわゆる解釈学的方法)を身に付けることによって、対象の「底を読む」ことが最も肝要であると言う。
著者がこのような持論に達しえたのは『萬葉集注釋』の著者澤瀉久孝教授の薫陶による。文学研究はあくまでも言葉であり、一字一句もゆるがせにしてはならぬことを身に沁みて学んだ。伊藤博の萬葉学もここに始まり、やがて「仲間入り」して『底を読む』持論を身に付けた。この注釋書の特徴は、明確な成立論を背景に、数々の配列の様相をも掘り下げて萬葉人の心の像に迫ろうとしたものである。
このような註釈を伊藤博という人がどうして書きあげることができたのか。それは彼がひたすら師澤瀉久孝の学を学び取ったからである。「天性の訥なる者、もはやそれに徹するほかに生きるすべはない。よって、書斎をつとに愚拙庵と名づけ、本を読み文を書くことで愚拙の者になりきろうと心がけてきた」と自らの生き方を述懐している。
澤瀉久孝『萬葉集講話』の解説をした中に、次のような現代を警告する澤瀉久孝の一文がある。
すべて入るに努力を要しない「簡便」という事こそ世界を混乱せしむることなのです。簡便と単純とをごっちゃにしてはいけません。単純というものは、物により、事により、多かれ少なかれ、努力なしには至れないものなのです。そこに単純の貴さがあるのです。萬葉集のいのちは単純なところにあります。
この文章を読み、深い感動にむせんだことも付記している(雅)
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