私はこの岡田敦さんの写真集を観て、メディアとアートの違いに
気づかされた思いがしました。
衝撃映像を集めた番組というのがありますが、人々はそれを、
どんな気持ちで見ているのか知りたいと、いつも思います。
数年前から青少年の心が傷つき、壊れ、危機的な状態だということは
大きな問題になっており明らかな事実です。
そしてその原因のひとつは、今の大人達が作り出したこの社会だと
言われています。
岡田さんの写真は、リストカットをしてる人達の言葉を挟みながら、
植物や虫などのごくごくシンプルなモチーフを岡田さんの視点で選び、
真っ白い地の上に無造作に置かれて撮影され、それがページをめくる
にしたがって、様々に展開されていきます。
モチーフはシンプルですが、どこか見たことのあるような、無いような、
不明瞭な形にゆがんでいます。
写真は、色・形が浮き上がり、異常なほどの透明感を持っています。
まるで繊細で壊れやすい青少年の心を見ているようです。
メディアの、視聴者の心を混乱させ、興味のみをひき起こさせるような
映像の作り方と比較すると、いかに岡田さんがリストカットをする若者達の
「心」を大切に思い、この現状をどんなふうに伝えるべきかにどれだけの神経を
使って写真を撮られているかがわかります。
岡田さんの写真は、静かに、私達が今なにを考え、大事にするべきか、
教えてくれています。
アートというのはただ美しく心地よければいいというものではありません。
観る者に対して何か心を揺り動かすものです。
それでも、この写真集が一見とても重い問題を主にしていながらも
美しさを見失っていないのは、岡田さんが写真家として、若者への
まなざしが、作品を観る者への気持ちが、優しく暖かいからです。
メディアとアートの違いは、それを創るアーティストの気持ち、「心」が
存在しているかいないか、という点ではないかと思いました。
とても寂しく、痛く、美しく、暖かい写真集です。