私が本書を「入門者にふさわしい」と言ったのは、この本は単純に中国語スキルを向上させるだけの目的で作られているのではなく、食・京劇・切り絵などのカテゴリー別に中国のさまざまな文化を、カラーの写真や絵などを用いて紹介しているところにあります。それらは非常に美しく、内容も良く、見ているだけで楽しいと言えます。
言葉を学ぶだけに重点を置く教科書もよいのですが、特に入門者には中国の良い文化を楽しみながら言葉も並行して学ばれるのが良いと思います。そういう意味では、本書は非常に洗練された一冊であり、編集者の意図もそこにあると思います。
逆に中級者以上の方でもっと語学力を高めたい方には、もっとふさわしい教材が他にあると思います。そういった方は難しい教材に挑戦されたほうがいいでしょう。
気軽な文体ながらも解説はきちんとしています。
「なぜこう言うのにああ言わないのか」
という疑問に回答するときにはさすが専門の研究者だけあって論理だてて説明しています。たとえば、祝う・謝る・罵る・出会う・別れるといったときのことばに現れる文化的側面がしっかり取り上げられてあり、なるほどと思うことが多い。
なにげない日常の表現にも中国語の論理が貫徹していることも示してくれます。
いろいろな機会に書いたものを集めたのでやや雑然としていること、出版物に収録するほどではない気楽すぎる記事があることなどが短所ですが、この本の価値を低くするほどではありません。ただ、価格はもうすこし安くても良いように思います。
発音、音調などに関してはCDつきで詳しく説明されていますが、図などによる説明はないので、ほかの参考書を参照する必要があるでしょう。
ただ、比較的新しい本であるにもかかわらず、本文の構成が読みにくく、人によっては学習意欲がそがれる可能性があるかも知れません。