スペイン語の入門書と銘うった本が果たして合格か否かを判断する際に私は、接続法を端折ることなく取り上げているかどうかを確かめることにしています。
この本は実に16頁を割いて接続法を細かく解説しています。また「頭の中の思いを主観的に述べる法(モード)/接続法とは何か」とか「ありそうもないことを考える/接続法の過去形」といった具合に、読者がイメージをつかみやすいように平易な言葉を選んで説明していて、大変好感がもてる本だともいえます。
▼付属CDの録音時間は57分21秒もあり、相当量の例文を読み上げています。発音から推して、吹き込み者の男女二人は南米出身者です。スペイン人と異なり、cとzの音を舌先を噛まずに発音しています。スペインの発音が南米の発音よりも「すぐれている」と評する気持ちはありませんが、cとsを明確に区別するスペイン式発音を(日本人にはちょっと手間ですが)身につけたほうがスペイン語の綴りを間違いなく覚えられる利点があるのも事実です。ですから私は個人的には南米の発音よりはスペイン式の発音のほうをお勧めします。事実cとsの綴り間違いをする人が南米には多いのです。
▼この本に氏名が明記されている二人の吹き込み者以外に付属CDには第三の男性吹き込み者がまじっています。その人の発音はスペイン語をローマ字発音しているのですが、まさか日本人ではないでしょうね。もしそうだとし!たら、それは読者への裏切りだと思います。読者は日本人の発音を聞くために2000円を支払うわけではありませんから。なんだかとても気になります。
付属のCDの吹き込みスピードは程よくゆっくりしています。スペイン語の文章と日本語の訳文の両方が吹き込まれています。こういう作りのCDはテキストが必ずしもわきになくても学習できる便利さがあり、例えば通勤途上にマイカーを運転しながら勉強することができます。えてしてスペイン語の例文だけを吹き込んだ付属CDが多い中、こうしたサービスは貴重で好感が持てます。
「日本の教育制度」「求職と求人広告」「わびとさび」「サインと印鑑」など日本文化に関する短いスペイン語コラムが各頁に掲載されています。これはなかなか役に立つと思います。使われているスペイン語は比較的平易ですし、日本語対訳つきですから辞書を引く手間もなく読み進めることができます。付属CDにこのコラムが吹き込まれていないのは残念ですが。
なお本書は同著者の「ハイブリッド 日本語・スペイン語対照生活会話ノート」(三修社)がもとになっていて、掲載例文もCD吹き込み者も同じです。すでに同書を持っている読者は本書を買う必要はないでしょう。
この本では、見開きでの対訳構成がポイントです。左ページに日本語文と読み方(ローマ字表記)、右ページにポルトガル語と読み方(カタカナ表記)となっています。
つまり、いざポルトガル語で意思疎通するときに、相手と一緒に見開きを見ながら、互いに話したい内容のページを開いて、相手の言葉のページを指差せばOK!
これは、ポルトガルやブラジルからいらっしゃった方と多く接する方にとっては重宝すると思います。単語集としては構成されていませんので、日葡英・葡日英辞典を脇に置いて組み合わせれば鬼に金棒でしょう。