またスペイン語圏の文化や豆知識等も豊富に記載されているため、楽しく単語を学んでいける一冊です。
そのためにアカデミックにスペイン語を学ぼうとしている初学者の読者には喰い足りないという思いが最初は残るかもしれません。しかしスペイン語を学び始めてしばらく経ち、しかもちょっと学習に疲れを感じだしているような読者にはこの本は意外と有益だという気がしました。
というのも、この本はスペイン語に限らず外国語をコツコツと学習していく上でとても大切な心構えを教えてくれるからです。ひとつの動詞に59もの活用が存在するスペイン語は、それだけの量を頭に叩き込もうと肩に力を入れると疲れきってしまいます。しかし、ちょっと目線を変えて、「スペイン語の動詞って59もの活用があるんだ、へぇ~面白いなぁ。どんな風に変化するんだろう」とその事実を楽しめる心があれば、外国語の学習は意外とスムーズにいくものだという気の持ちようのコツがこの本の全編を貫いているのです。
あせらず、ゆっくり、感心しながら学んでいくことを著者は「フムフムなるほど学習法」と見事な名づけで呼んでいます。スペイン語を英語よりも複雑で厄介な言語とみなすのか、それとも英語よりも多種多様な変化を見せてくれる魅力的な言語とみなすのか。その視点の設定の差が学習者の上達の度合いを大きく左右するのだなということを改めて感じさせる読書でした。
付属CDはミニ・サイズで、収録されているのは本書の第2編「基本的な文型」のみです。吹き込み例文は「どうもありがとう」「おはようございます」といったものからvoy + a ~という未来形まで。掲載されている例文の全体数に照らすと、吹き込まれている例文の数は少々物足りない気がします。
私は本書をスペイン語の知識のない読者にはお勧めしません。本書に書かれた文法説明だけではスペイン語を一から学習するには全く足りません。ですから文法がある程度頭に入っている人がさらにおさらいとステップアップを目指して手にすべき一冊、と考えるほうが賢明だと思います。
コンパクトなサイズとはいえ頁数は500近くありますから、掲載例文は相当数にのぼります。また例文は接続法が含まれているものあり、過去未来形が含まれているものあり、と動詞の活用を一通り修めていない読者には、なぜそういう形になるのかと首をひねるばかりでしょう。一方で、ある程度スペイン語を修めた読者には「ははぁ、なるほどこういう表現が出来るのか」と新しい発見をする書になりうると思います。
CDの吹き込み担当者はエバ・ガルシアという女性です。2004年度上半期のNHKラジオ「スペイン語講座」で福嶌教隆・神戸市外語大教授と一緒に出演しているあのエバさんです。彼女はマドリード出身ですので、本書付属のCDではスペインの標準発音を聞くことができます。