高校卒業という多感な時期を思い返すプロデューサーの、このドキュメンタリー実現にかける思いも伝わる.
ひとりひとりに卒業の意味を問いかけ、切ない記憶を呼び覚ます短編ドキュメント.
それにしても大変読みにくい本です。構成に読者の興趣をつなぎとめる工夫がありません。200頁強の長さの本を手にした当初は、上演初日を迎えるまでの長いドキュメントが綴られているのかと期待しましたが、およそ半分を過ぎたところで初演の日は拍子抜けするほどあっさりとやってきてしまいます。本書の後半は宇宙飛行士の向井千秋氏や紀宮殿下がホンジュラスを来訪して「米百俵」を鑑賞したというエピソードがかなり冗長な感じで書き連ねられています。
このほかにもホンジュラスの文化大臣や長岡市長、大統領令嬢、そして募金を寄せてくれた多数の人々に対する謝辞とも取れる記述が過剰なまでに延々と続きます。本書は関係者へのお礼状としての役割が前面に出てしまっているのです。これは著者の外交的プロトコルを重視する職業上のクセが大きく作用した結果でしょう。
また様々な挿話間の相互連関性が途切れることが多く、時系列も省みられず並べられるために、お話はあちらへ飛び、こちらへ転がりといった具合です。滑らかな読書を妨げられました。
初演に向けた名もなき人々の獅子奮迅の苦闘を負う「プロジェクトX」的な構成を素直に目指せばもっと深い感動を読者に提供できたのではないでしょうか。
こうした欠点はひとり著者が負うべきものではありません。プロの物書きではない著者を叱咤激励しながら導いていくのが編集者の仕事です。出版社が大手ではないということで著者は残念ながら編集者に恵まれなかったようです。