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和書 720720 (82)



こころのりんしょうa・la・carte Vol.26No.4 (26)
販売元: 星和書店

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 リネハンの弁証法的行動療法(DBT)のテキストが昨年に2冊翻訳されたことにと
もなって、その導入・入門・道案内として特集が組まれたようである。

 DBTは日本では最近紹介され始めた新しい療法なので、知らない人もいるかもしれ
ないので、簡単に説明すると、DBTは境界性パーソナリティ障害(BPD)の治療に
特化した治療法である。行動療法に禅の思想を取り入れ、衝動性をコントロールしてい
くことを目的としている。そして、DBTは個人精神療法(週1回1時間)+グループ
療法(週1回2時間半)+電話コンサルテーション(24時間対応)+治療者ミーティ
ンググループ(週1回1時間半)の4つから成り立っている。

 この4つの構造を継続するには大変な時間と労力とお金がかかり、日本の現状ではこ
れをそのまま実施することはコスト的にも難しいと本書では繰り返し述べられていた。
これは本当にその通りだと思う。P37ではDBTを医療保険で実施した場合の金額を
算定しており、年間1人1,462,670円もかかると出ています。ただし医療保険自体はかな
り低い金額なので、これでも赤字になるぐらいで、黒字にしようと思ったら2〜3割増
はしないといけないでしょう。

 米国ではチームアプローチが基本であり、病院のシステム上、このようなDBTの構
造を導入してもスムーズに行くが、個人プレーが基本の日本ではDBTの構造をそのま
ま導入するのはかなり難しいようである。というかほぼ不可能で、現在のところ日本で
標準的なDBTを行っているところは皆無のようである。少数ながらDBTを修正しな
がらやっているにすぎないよう。

 今、日本で標準的なDBTを低価格で提供できたら大流行かもしれない(笑)

 また、DBTは、行動療法の変容を促進させる介入と、今のままで良いと受容する介
入の二つがあり、それは一見矛盾するようだが、弁証法的に統合していく中で治療が進
むというのが基本的な考えのようである。しかし、結局、衝動をコントロールすること
を目的においているのがDBTなので、変容する=good=治療という価値観が根底にある
のかなと思った。

 DBTは無作為割り当て比較試験(RCT)で効果が証明された治療法ということで
、米国ではBPD治療のスタンダードになってきつつあると言う。これはあるところで
聞いた伝聞であるが、研究のために集められたBPD患者はDBTを受けるだけの高い
費用を捻出できる人に限られていたとか。高い費用が払えると言うことは、それが家族
や周囲からのサポートであったとしても、それだけで病態水準が高いということである
。本当に病態水準が低いドロドロのBPDは生活保護を受けていたりなど、収入を得ら
れるものではない。さらに家族などのサポートもないから大変なのである。高い費用を
捻出できる人を集めたということはそこですでにサンプルバイアスがかかっているとい
うことなのであろう。この点については詳しくは本書に載っていなかったので不明であ
る。

 また、別の精神分析の先生が言っていたことであるが、「DBTでは確かに衝動性が
抑えられるが幸福感が無い。精神分析がうまく行くと幸福感がある。」と。なんとなく
分からないでもないが、精神分析をしているとそんなに幸福感が得られるのかどうかが
今のところ疑問。知りたくないことを知ったり、自分の負の部分を突きつけられたりす
ることもあり、精神分析も結構大変で、辛い療法であるような気もする。直面したくな
いから防衛していたのに、その防衛を解釈し、直面したくないものを見ていくのが精神
分析なのだから。自分を知っていくというのがある種の満足であるというのは分かるが。

 あと、DBTだけではなく、CBTなどで「治療がうまく行かないのは患者の努力不
足などではなく、治療者の技法の選択ミスや技量の問題である」ということがよく言わ
れる。これは確かにその通りであって、うまく行かないのを治療者が責任転嫁すること
を戒めているものである。これによって患者が必要以上に傷付いたり、放り出されたり
しないというブレーキにはなっていると思う。しかし、ある意味では確かにそうなのだ
が、この格言の裏を返せば、「うまい治療をすれば、すべての患者を治せる」というこ
とになる。これはどうなのだろう?僕もそんなにも臨床経験があるわけではないが、ど
うしようもない・手の打ちようがない・手が出せない・といった一群の患者もいるよう
に思う。すべて治せるといった考えからは魔術的な万能感を感じてしまう。もちろん、
「手が出せない」といった逆転移なのかもしれないが。

 しかし、本書で書かれていたDBTでの考えのいくつかは僕もすでに経験的に使って
いたり、知っていたりしました。例えば、BPDの破壊的な行動というのは、悪意のあ
る問題行動ではなくて、自分を守るため・人を守るための対処行動であり、そういう行
動をできているというところを評価する、というところとか。精神分析でいうと自我の
防衛機制がある意味ではきちんと働いていると理解できるところである。こういうとこ
ろを精神分析などでは経験的に言われてきた事を、DBTではシステマティックにまと
めあげているところが治療的な貢献なのだろうと思いますが。

 本書はDBTの入り口として読むには良い本であるが、これでDBTをマスターでき
るわけではもちろんない。さらに理解を進めるためには他のリネハンの2冊の翻訳書を
読んで見なければならないだろう。僕も時間があれば読んでみようと思う。




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販売元: 星和書店

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