著者はグローバル化する経済を捉えるために集積を単位とした地域に注目し、その地域を「技術集積」という観点から捉える。本書の最大の特徴は、この「技術集積」という、『フルセット型産業構造を超えて』(1993年)において提起された概念をより精緻化して、製造業、特に機械工業の空洞化問題の核心に迫ろうと試みている点にある。
著者の提唱する「技術集積」は、「基盤的技術」・「中間技術」・「ハイテク技術」から構成される。この概念を用いて、著者は大田区のような競争力ある産業集積の繁栄の源泉は、無数の中小企業からなる「幅」の広い「基盤的技術」にあったと指摘、現在それが歯槽膿漏的に崩壊しつつあると警告する。また、地方に多い企業城下町は技術集積としてみると実はASEANと同じであり、それが円高の過程で企業の東アジアへの転出の原因となっていると指摘する。
著者は、空洞化の克服にはまず地域の製造業の技術的基盤を整備することが必要であり、その上で東アジアの各地域と技術集積のネットワークを構築すべきであると主張する。そして、東アジアにおける日本の役割は、安い労働力を求めて渡り鳥のように生産拠点を移転するのではなく、日本の技術を進出先で「技術の地域化」に役立てることであると説く。
今後の著者の研究で、より技術集積の概念を精緻化することが期待されるよう。また、機械工業以外の日本の産業全体の構造改革の中に著者の研究を位置づけること、そしてポーターに始まるクラスター研究など産業集積を扱う既存研究の中での位置づけを明確にする作業なども求めたい。ともあれ、現在の日本経済の再生に関心のあるものにとって、本書は必読書である。