第146番(アーノンクール)・・・チェンバロ協奏曲BWV1052が好きな方なら聴き逃せない作品。冒頭シンフォニアはBWV1052の第1楽章(ソロはオルガン)、続く合唱は第2楽章の音楽が使われている。演奏は豪快で勇壮。タヘツィのオルガンも見事である。
第147番(アーノンクール)・・・コラール(2回出てくる)がとりわけ有名な、録音数も多い人気曲。第140番同様、アーノンクールは持ち前のアクの強さをここでは控え、やや遅めのテンポで穏やかな演奏を繰り広げている。アルトのソロは少年が担当していてなかなかの健闘だが、やはりエスウッドのソロで聴いてみたかった。
第156番(アーノンクール)・・・簡素な編成だが、死に臨む者の思いを歌う詞が切なく心に突き刺さる傑作。冒頭シンフォニアは協奏曲BWV1056の第2楽章の音楽(ここではオーボエ・ソロ)。演奏は歌詞の内容にふさわしい、清潔でしっとりとした味わいだ。
第159番(レオンハルト)・・・「ミニ受難曲」の趣きがある作品。第4曲のバス・アリアは短いが心にしみる名曲。レオンハルトも真摯な演奏でこの曲の魅力をよく引き出している。ソロを受け持つソプラノの少年、アルトのエスウッド、バスのエグモントも好演。
第161番(アーノンクール)・・・バッハのヴァイマール時代の曲で、死へのあこがれをしっとりと美しく歌い上げる傑作。2本のリコーダーの可憐な響きが印象的。第1曲のアルト・アリア、第3曲のテノール・アリアでエスウッド、エクヴィルツ両者が安定感のある名唱を聴かせてくれる。
合唱、ソロ歌手、器楽・・・どれもハイレベルの安定した美しい演奏で、おそらくバッハ自身たちの演奏水準をはるかに上回るものでしょう。上記の名曲も非常にウマく演奏されていますが、私には歌詞の内容が今一つ心に切実に伝わってこない感じがするのです。
例えば第124番のテノールのアリアでは、プレガルディエンが美しい声でとてもウマく歌っているのですが、遅いテンポと迫力にかける気の抜けたようなオケの伴奏で「激しい死の一撃が感覚を鈍らせ、身体をのたうち回らせるとき」という歌詞にそぐわない表現になってしまっています。コープマンはこの曲でむしろ「不安」を表現したかったのかもしれませんが、激しい「鞭打ち」を模したような弦楽伴奏で「死の一撃」を表現していたリヒターやアーノンクールの演奏の方が心を奪われます。
ここまで順調に進んでいたコープマンによるバッハ・カンタータ全集ですが、この第12巻発売後に発売元のワーナー側が一方的に全集の中断を宣告してしまいました。コープマンは何としてでも全集を完成させる気構えで、ついに今年になって自主レーベルを立ち上げて第13巻を発売したのです。
異稿も収録され、世俗カンタータも含むという画期的なこの全集は、何としてでも完成していただきたいものです。私は一バッハファンとして、コープマンに期待し、応援しています。がんばれ、コープマン!
第105番(アーノンクール)・・・歌詞・音楽とも聴く者の魂をゆさぶる傑作。アーノンクールも真摯な指揮で、聴く者の期待に応える。注目のソプラノ・アリアは少年が苦しみながらも(?)よく健闘している。
第106番(レオンハルト)・・・「哀悼行事」用の初期作品。バッハの全教会カンタータの中でも屈指の名曲で、録音数も多い人気曲。リコーダーとヴィオラ・ダ・ガンバの古風で渋い響きが心をシビレさせる。レオンハルトの演奏はやや遅めのテンポで、じっくり、しみじみとした深い味わいがある。
第110番(アーノンクール)・・・クリスマス用の作品。冒頭合唱は管弦楽組曲第4番(BWV1069)序曲の転用。使用される楽器の種類も多く、華麗で豪華な印象を受ける。演奏も活気があって楽しい。
第115番(アーノンクール)・・・木管楽器が可憐に彩る、美しい作品。晴れやかな冒頭合唱、厳粛なアルト・アリア、瞑想的なソプラノ・アリアと多彩な魅力がある。アルト・アリアではエスウッドが妖気あふれる(?)歌唱を聴かせ、ソプラノ・アリアではシュタストニーのトラヴェルソとアーノンクールのチェロ・ピッコロとの絡み合いが渋くて熱い。
ルネサンス音楽は「古楽」という分類なので「古い」というイメージをお持ちの方は、「9.父さん私に夫をくれた」でも聞いてみてください。これは父の命令で年寄り貴族と結婚させられた少女の嘆きを歌った歌ですが、美しい女声と男声のカノン風の歌唱にルネサンスフルートの清新な息吹がからんで、まったく時空を越えた魂の響きを伝えてくれます。西洋の感性の歴史に、こんなにも陰影にとんだ、こんなにも多彩な時代があったのかと驚きます。
ロンドン中世アンサンブルの演奏は、声楽・器楽ともに実に端正、見事な演奏です。特に器楽のみの曲では、リュートその他の古楽器のもつしっとりとした、しめやかな味わいが堪能できます。