このミサ曲は1921年から途中大きく中断しながら1929年までかかって完成されました。
解説を読みますと、個人的な信仰心の発露として作曲され、長らく演奏されることはなかったようです。作曲と言う行為は個人的なものですが、この曲はその作曲動機を考えますとその典型的なものの一つなのかもしれません。
全編を通じて、当時流行だった十二音階技法とは少し距離をおいています。伝統的なグレゴリオ聖歌の影響が、旋律にもいたる所で表れています。厳かですが、時には、激しい表現も取り入れながら、深い信仰心に裏付けられた曲ですので、受ける感銘もまた深いものがあります。
旋律も抒情的ですので、どのパートも歌い応えもあり、無伴奏合唱作品の中でも多くの合唱人に愛されている名曲です。
第1コーラスと第2コーラスとが時には交わり、時には、別々に淡々と厳しくリズムと和音を刻む、というように、役割を替えながら、構成されています。ミサ通常文のテキストの持つ意味のまま、マルタン自身の信仰心を表出した表現を取っていますので、色彩豊かな作曲だと思います。魅力的なパートが多いので歌い飽きがこない、とも言えるでしょう。
『無伴奏二重合唱のためのミサ』は、8パートのどれもが大切で、良い演奏のためには、メンバーの水準を揃える必要もあり、演奏される機会は多くありません。このCDが再発売されましたら、是非お聞き下さい。
シュナイトが指揮するこのモテットは、1973年の演奏のものですが、録音も素晴らしく、全く古さを感じさせません。現在の古楽器を使用し、小人数で歌うスタイルが普通だと感ずる方には、重い合唱のように聞えるでしょう。個人的には、このレーゲンスブルク少年聖歌隊が歌う壮大なバッハを大変気に入っています。天上世界から合唱がふりそそぐイメージが、この曲にピッタリだと思っています。
曲の構成としましては、このバッハの『モテット3番』は、完全なシンメトリーの構造を持っています。バロックの大家バッハらしいゴシック建築を思わせるような堅牢な体系を持っており、緻密な構造がとられています。6回繰り返し歌われるコラールの旋律は大体一緒で、これらのコラールにはさまれて、異なるモティーフの曲が間に置かれています。そして全11曲あるちょうどその中心の第6曲には、壮大な5声のフーガがおいてあります。これは難しい箇所ですが、歌い応えもある楽曲で、好きな部分です。
この曲は、バッハのモテットでは最大のもので、曲の素晴らしさも相俟ってまったく飽きることなく歌えますし、聴いていても飽きません。バッハの変奏の技術が冴え渡り、内容の大変充実した合唱曲です。
この曲を知っている方も知らない方も、一度この素晴らしいバッハの教会音楽の世界を堪能してください。