作詞家・阿久悠が全ての構成に携わり、五人の作曲家が二曲づつ（病の直前、直後のシングル曲である「円舞曲」と「かなしみ模様」―いずれも作詞・阿久悠、作曲・川口真―を除く）をこのアルバムのために書き下ろしました。
歌手・ちあきなおみ、作詞・阿久悠と限定された上での競作ですから、おのずと力の入れようも変わろうというものです。
選ばれた作曲家は、川口真（「風の吹く日と一日は」、「波止場通り」）、71年の尾崎紀世彦「また逢う日まで」で阿久悠とコンビを組んだ筒美京平（「ふたり自身」、「私は死にたい」）、71年㡊??「ピンポンパン体操」でコンビを組んだ小林亜星（「二泊三日」、「お酒の味」）、72年の藤圭子「京都から博多まで」でコンビを組んだ猪俣公章（「雪の宿」、「流転の詩」）、そして74年に「東京暮色」でコンビを組んだ、もと六文銭メンバーの及川恒平（「ひき語り」、「お別れ記念」）、の五人。
川口真、筒美京平の作品については、いずれも文句のない出来映えで、特にちあきなおみが低音のビブラートを効かした「風の吹く日と一日は」と、ファルセットを効果的に使った「私は死にたい」が素晴らしい。
小林亜星は、ちあきなおみから何かを引き出すといった意欲に欠けていたのか、曲はいずれも平々凡々。
予想外であったのが猪俣公章で、いずれの曲もちあきなおみの持ち味を引き出しています。特に情感た!っぷりに歌う「雪の宿」は、演歌ファンにとっては堪えられない一曲です。
及川恒平の作品は、後年の友川かずき（「夜へ急ぐ人」、「視角い故里」、「普通じゃない」等々）とはまた一味違った、ちあきなおみの新しい世界創出の期待を抱かせてくれたのですが、これっきりとなってしまったのが残念です。
“時は流れ、時代が移り変わろうとも、聴く者の心を捉え、魂を揺るがす普遍的な歌”を目指そうとしたちあきなおみ。サブタイトルにある“新しい出発”は、その決意を改めて私たちに示してくれたように思えます。
