さて内容ですが、タイトルにもあるように「作家別作品」になっています。
このCDは「細川潤一」と「林伊佐緒」です。
まず「細川潤一」の作品について。
曲目をご覧になれば分かりますが、ほとんど兵隊節で、戦前録音中心。
曲調もゆっくりしたもの、言いようによっては退屈なものが多いです。
「軍歌っぽい」曲といえば「グライダー部隊」「勇ましき軍鳩」ぐらいでしょうか。
なお「ああ我が戦友」は、キングの他の軍歌CDでもよく見る戦後音源。
つぎ「林伊佐緒」。
こちらは比較的軍歌らしいというか、典型的な戦時歌謡です。全て戦後録音。
「出征兵士を送る歌」は有名な音源で、
キングの他のCDに必ずといってもいいほど入ってる例のやつです。
これ以外では「世紀の若人」と「十億の進軍」は佳作。
「軍歌に散在して悔いなし」っていう方は、この2曲の為に買ってもいいかもしれません。
「国民歌謡」放送開始時は1936年であり、翌年には支那事変が勃発していますから、曲の内容は支那事変から大東亜戦争全般にわたります。なお、収録音源はすべて戦前録音です。
さて全体の評価としては星5つ付けて良いと思います。理由としては有名な戦時歌謡がふんだんに収録されている事、マイナーな曲にも優れた録音が多い事、の2つです。
まず有名な歌謡についていえば、「海行かば」「愛馬進軍歌」「くろがねの力」「南進男児の歌」「靖国神社の歌」「海の進軍」「そうだその意気」など。戦後の美麗な録音にも匹敵する名録音であり、名曲たちです。これだけ名曲の戦前録音が1つのCDに収録されている事は極めて希。特に「海の進軍」の録音は素晴しい。
次にマイナー曲で取り上げれば、「国に誓う」「空襲なんぞ恐るべき」「大航空の歌」「突撃喇叭鳴り渡る」などが比較的優れたものといえるでしょう。
戦前録音のみCDとしては間違いなく優れた部類に入るので、買って損はありません。
収録はすべて戦前録音。要するにレコード会社の倉庫にあった、
軍歌のレコードから片っ端に収録したものであり、
珍しい曲が大量にあるぶん、玉石混交とならざるをえません。
なお、戦時歌謡と銘打っていますが、
国連脱退を歌ったもの、ペルリン五輪の応援歌や
当時世界最高の航続距離をマークした神風号を記念する歌など、
当時を偲ばせる歌も収録されています。
まさに「歴史を切り取ってきた」感がいたします。
当時はまだ戦局がそれほど暗澹としたものではなかったので、
戦時歌謡のほうもそれほど悲壮なものとはなっていません。
また、やや演歌調の曲が多いことも指摘できます。
優秀な録音をあげておけば「連盟よさらば」「陸軍記念日を祝う歌」
「あげよ日の丸」「遂げたり神風」、そして有名な「露営の歌」と
その間奏曲に歌詞を付けた「さくら進軍」などでしょう。
全体的にみれば、良い曲もあれば演歌調のよくわからない曲もあり、
CDとしてはまあ及第点といったところ。
★★★か★★★★で迷うところですが、
当時の歴史情勢の音楽資料を熱望する人は★★★★。
いかにも「軍歌」な曲も求める方には★★★といってよいでしょう。
このシリーズは当時のレコードを漏れなく収録しようとしていますので、
すべて戦前の録音ですが、その為内容に上下があります。
珍しい曲が多いぶん、当時の人も覚えてないようなどうでもいい曲もあるということです。
しかし比較的に有名な曲や優秀な録音もあるため、
必ずしもこのCDではマイナスに作用していません。
例えば優秀な曲について言いましょう。
「愛国行進曲」は当時のコロムビアのもつ歌手を
総動員した感のある陣容で豪華な録音となっています。
「皇軍入城」も当時の連戦連勝する日本軍を歌った世相を映す佳曲。
「勇猛戦車隊に捧ぐる歌」は隠れた名曲。
日本の戦車を歌った躍動感のある曲です。
「大日本の歌」は擬古文を生かした日本賛歌。
録音が優秀であるゆえに、あまりメジャーではないながら、
今日有名になっている曲です。
「空の勇士」「紀元二千六百年」は有名な曲ですね。
その戦前の録音です。
これら以外の曲は好みに応じて、といったところ。
評価としては星3つと4つの間で、やや4つよりといった感じ。
個人的に「勇猛戦車隊に捧ぐる歌」と「大日本の歌」が
お気に入りなので4つにしておきます。
3つにしても、あまり問題はありません。
さてこの戦時歌謡シリーズ、
当時の録音(1つだけ戦後録音がありますが)を見境なく収録しているので
録音の評価がまちまちなのですが、この3枚目は次の4枚目とならび、
優れた録音が大量にあります。
しかし優れていながらマイナーの地位に留まっているものが多く、
是非もっと著名になってもらいたいところです。
それ故やや見込みをこめて、最高評価を付けておきます。
たとえば対米戦前だと、「誰か故郷を想わざる」
「嗚呼北白川宮殿下」「赤子の歌」が優れていますが、
その中で特に「赤子の歌」が白眉。
「赤子」は「せきし」と読み、「天皇の子である国民」の意味です。
当時の国民の心意気のこめた絶妙の歌詞のもと、
荘重で重厚に歌い上げられた名録音です。
次は開戦後。「英国東洋艦隊潰滅」はマレー沖海戦を歌った名曲。
このCDではこれだけ戦後録音です。
「大東亜決戦の歌」は開戦10日後に録音されたもので
当時の高揚感が伝わってきます。この2つは割りと有名。
それ以外だと「シンガポール晴れの入城」は格調高い隠れた名曲。
「ハワイ海戦」も、真珠湾での勝利を歌った曲。
「ハワイ大海戦」という曲もありますが、それとは別物です。
その他、「戦い抜こう大東亜戦」「打倒米英」などもなかなか。
「アメリカ爆撃」という、米本土爆撃を記念するキワドイ曲もあります。
とはいうものの、このCDほど隠れた名曲が多いCDもないのです。
この「戦時歌謡」4枚のなかでは、もっとも優れた音盤でしょう。
曲目を見れば確かにマイナーなものが殆どでしょうが、
一度聴いてみれば、有名な歌曲に匹敵する録音が目白押しです。
言わばこのCDは日本の戦時歌謡、最期の華なのです。
では具体的に。「国民歌 山本元帥」は山本GF長官戦死に際してつくられた追悼歌。
山本元帥追悼歌としてはもっとも秀逸なものでしょう。何故か凄く明るい曲調。
「海を征く歌」は格調高い名曲。この曲は比較的著名。
「アッツ島血戦勇士顕彰国民歌」は、アッツ島玉砕に対して作られた悲壮な曲で、
歌詞のほとんどが当時の大本営発表によっているのですが、
今日、実際の戦況を知りつつ読むと何とも悲惨な感じを受けます。
「敵の炎」は超マイナー曲ですが、この録音は卓抜です。
米軍の本土爆撃に対して「これに屈するものか、
いずれ米本土にも爆撃してやるぞ」という過激な歌詞を、
伊藤久男と楠木繁夫の2人が絶妙に歌い上げています。
「台湾沖の凱歌」は、戦争末期に敵の空母を何隻も撃沈という
大本営の虚報がそのまま戦時歌謡になってしまったとんでもない曲。
凄まじく明るい曲です。「フィリピン沖の決戦」も明るすぎて逆に悲惨さが伝わってくる歌。
なお、最後の「比島決戦の歌」だけは戦後録音。
これはこの全集を編集する時に新規に録音されたものですが、
「いざ来いニミッツ マッカーサー」と言いたいだけの曲です。
遊びみたいなものですね。まあ、ネタにはなります。
CDとしての面白さよりも資料的価値を重視したのか、有名な曲と共にそのカップリング曲も一緒に収録しているので、(資料的には貴重だが)歌としては駄作といえる曲も入っています。シリーズを全て収集している人か、目当ての曲がある人には≪買い≫ですが、「進軍の歌」や「暁に祈る」などのメジャー曲だけが目当ての人は他の名曲集を買った方が楽しめると思います(霧島昇の曲も少ないですし)。
なお、歌詞カードにはおまけとして曲目解説がついているので親切です。
さてこちらの方が優れているといった理由は、
全体として良い録音・曲に恵まれているから事です。
有名な曲としては「若鷲の歌」「轟沈」「勝利の日まで」。どれも良い録音。
その他「決戦の大空へ」「水兵さん」「海の初陣」「君こそ次の荒鷲だ」などが
軍歌好きの方なら誰でも気に入る、優秀な曲といえます。
また当CDは変わった曲も収録されています。
まず「アイウエオの歌」。これは占領したシンガポールの児童に歌わせたもの。
曲としては面白くもなんともないですが、あの時代の記録としては興味深いところ。
次に「米英撃滅の歌」。題名も凄いですが、歌詞も過激の極みです。
多分日本の軍歌有数の過激さでしょう。
これでもかというぐらいに強烈な文言が連続。
ただし曲調はかなり鬱屈した調子になっています。