残念ながらヒットはしなかったけど、内容はいいですよ。Steveがハモンドでぐいぐいリードしていく感じは"Arc of a diver"の頃を思い出しちゃったりします。特に"Riding high"、"Nowhere is there freedom"あたりではSteveとJimのコンビネーションも気持ちよくキメてるし、Steveらしいメロディも嬉しい"This train won't stop"など水準以上の曲が並んでます。欲を言えば、この曲っていう決め球に欠けるのがまぁ弱点かな。
Steveが"High Life"で超メジャーになる前のソロが好きな方々には確実に支持される音だと思います。
【2.Sad Skinhead】
英語のボーカルが入る普通のロック・アンサンブルですが、決してポップとは言えない、
ピンク・フロイドの『夜明けの口笛吹き』に入っていそうなライトなサイケデリック・ナンバーです。
ドラム、ベース、ストラトキャスターのカッティングによるミドル・テンポの曲の間奏は、
ファズ・ギターによる多少稚拙なソロですが、マリンバのバッキングや微妙なSEが一味違います。
【3.Jennifer】
"Jennifer, your red heart's nervous, yellow jokes come out of your mouth."
(「ジェニファー、君の赤い心臓はいらいらしていて、君の口からは黄色い冗談がやって来る。」)
というコーラスのテーマ・リフは風変わりで、正にシュルレアリスティックな歌詞ですが、
英語詞のスローなテンポで、やはりミニマル・ミュージック的な反復を繰り返しながらも、
後半では徐々に凶暴なファズ・ギターの洪水が被さり、一転して無調風のピアノで終わる、
正にシュールな展開の曲です。
【4.Just a Second (Starts Like That)】
ドラム、ベース、ギターを中心にミドル・テンポのミニマル・ミュージック的展開から始まる曲ですが、
中盤から重なるシンセサイザーや「呪術的」とでも呼ぶべき様々なSEが、「ただものならぬ」展開へ
となだれ込むインストルメンタル・ナンバーです。
【5.Picnic on a Frozen River, Deuxieme Tableaux】 ~ 【6.Giggy Smile】
ファズを通したボーカルで乱暴に英語詞が歌われる、かなりラフな短いシャッフル・ナンバーに、
前作"So Far"に収録された曲の一部をリメイクしたインストルメンタル・ナンバーが続きます。
これもやはりミニマル・ミュージック的展開が中心ですが、ハットフィールド&ザ・ノースの
ファースト・アルバムに収録されている"Licks for the Ladies"という曲と似たような展開で、
いわゆるカンタベリー・ミュージック・ファンにもアピールするものがあるかも知れません。
【7.Leuft...Heist das Es Leuft Oder Es Kommt Bald...Leuft】
前曲が突然中断した後、ガット・ギターのイントロから、ヴァイオリンのメロディーに続いて、
6/8拍子と7/8拍子のリフレインが交互に反復して登場し、フランス語のヴォーカルが重なります。
中間部で登場する不思議なパーカッションが穏やかな曲調に神秘性を加え、一転した後半では、
テリー・ライリーやロバート・フリップのフリッパーロニクスの諸作を想起させる、
ファズをかけたオルガンが凶暴に音場を埋め尽くします。
【8.It's a Bit of Pain】
「レントゲン写真」のファースト・アルバムのラストに収録された"Miss Fortune"を想起させる、
いわば実存主義的な英語の詞が、比較的穏やかな伴奏にのって歌われますが、仕掛けはたっぷりで、
特にエンディングのファズとワウワウを掛けたフリーキーなギター・ソロは圧巻です。
"So Far"同様、いわばミニマリズム的展開の「サイケデリック」かつ「ポップ」な曲とノイズの
サンドイッチと呼ぶべきアルバム構成ですが、そこには確実にバンドとしての進化が認められ、
続編が期待されながら、その後の長い沈黙に入ってしまったのがとても残念です。とは言うものの、
パンク前夜の混沌とした音楽状況の極北とでも呼ぶべき歴史的名盤の一つです。まずはこの『FAUST IV』、
次に『SO FAR』、そして『FAUST TAPES』、最後に「レントゲン」という順番に聞き進めてゆくと、
このバンドの70年代の魅力が理解できると思います。
往時のファンには最新のリマスターおよび紙ジャケ化が切望される一枚でしょう。