このドラマCD4部作は、そんな彼女の視点で展開します。基本設定はほとんど同じで
すが、特に人間関係が掘り下げられているため、ゲームでは語られなかったエピソード
が数多く散りばめられています。ちなみに、今回の物語にハンナ、スー、セーラ、アン、
ノエル(ピコ)の5人は登場しません。
ただ一つ問題なのは、このドラマの背後にある世界観があまりに詳細かつ膨大なため、
ゲームをやった事のない人にとっては説明不足に感じる部分が多い事でしょう。でも、
それを補って余りあるほど、この作品の雰囲気、音楽、登場人物、そして内面の描写は
素晴らしいと思います。
特に第1巻は、夭逝された新山志保さんの歌声を聴くことができる点でも貴重な一枚と
言えますね。
第1巻では、ゲーム本編のシーンを振り返りながら少女達の出会いが語られましたが、
今作からは一気に物語の核心に迫っていきます。ゲームでは省略されていたエピソー
ドによって世界観に厚みが加わり、「なるほど、そういう事だったのか!」という発見が
少なくありません。
第2巻のトーンは、サブタイトルからも分かるように、第1巻に比べてシリアスな部分
が多くなっています。そして、ライズを始めとした少女達の内面にスポットが当てられ
ました。つまりこのCDは、悩みや葛藤を抱えながらも、自分を信じて生きようとする
彼女達を描いた「人間ドラマ」であって、決して「恋愛ドラマ」ではない点に注意が必要
です。キャラクターの表面的な容姿や、甘い仕草に興味がある人は肩透かしを食らう
でしょう。それでも、登場人物を全人格的存在として捉えた素晴らしいシナリオに仕上
がっていますので、一聴の価値ありです。
ちなみに、キャロル・パレッキーの明るさは第2巻の中で際立っています。彼女みたい
なウエイトレスがいたら面白いとは思いますが、お店は絶対に潰れてます(笑)。
第1巻、第2巻と綴られて来た物語も、今作に至って制作スタッフやキャスト達からスタ
イルを確立した自信が感じられるようになり、構成面で大幅に洗練された印象を受けま
した。特に、場面に合わせて流れる音楽や効果音が秀逸で、ファンタジーという世界設
定にもかかわらず、非常にリアルな生活感を出すことに成功しています。
また、ドラマ自体の面白さも特筆ものです。プリム、アリス、キャロルのメイド3人組が
織り成す漫才のような掛け合い、王女の誕生パーティーに仕組まれた復讐劇、そして
挿入された新エピソード「ローズバンク手記」。それらの中でも、夜のバルコニーで語り
合うプリシラとライズのシーンは美しく、何度聴いてもしっとりと胸に染み込んで来る良さ
があります。このCDを聴くことによって、「みつめてナイト」という作品が隠れた名作とし
て今でも評価され続けている理由を、知ることができるでしょう。
それにしても、クレアさんがバーテンを務める酒場の雰囲気、オシャレですね。こんな
バーだったら、毎日通ってもいいかなって思います。
最終章となる第4巻は、集大成と呼ぶにふさわしい完成度を誇ります。物語の後半に
向けて緊張感が高められ、一度聴き始めたら途中で止めることは困難でしょう。特に、
作品終盤のライズ登場シーンは必聴で、私は絶体絶命の状況下に現れた彼女へ思
わず感情移入していまい、体を固くして聴き入ったことを覚えています。
「みつめてナイト」の登場人物は、誰もが非常に身近な存在として迫ってきます。架空
世界の話にもかかわらず、彼女達が向き合う内面の葛藤は、現実世界に生きる私達
誰もが経験しうる問題です。この作品を聴いていくと、ライズやソフィア、プリシラとい
った少女達の言動に、深く心を動かされる場面がきっと出てくるでしょう。それは紛れ
もなく、彼女達が我々と同じ「人間」として描かれ、そこに「生きて」いるからではない
でしょうか?
「この物語に出会えて、本当によかった」と感じることが出来る、数少ない作品の一つ
だと私は思います。