ビリー・ネンシオリの歌唱は、いかにも歌手然としています。
ボサノヴァを期待してはいけません。ねちっこいです。
ネンシオリがバーデン・パウエルの影響を受けているというより
バーデン・パウエルがパリで仕事をしている、という感じでしょうか。
フツーに「歌」だと言ってしまえばそれまでですが、作曲は
全てバーデン・パウエル。彼の壮大なセンチメンタリズムが
あたり一面に横溢しています。「歌」という形を借りてこそ
表現可能な領域があるのでしょうか。
特に最後の2曲が切ない。
思わずコートの襟を立てて、寒さをしのぎたくなる。
演奏家としても優れていますが、作曲家バーデン・パウエルの
怒涛のセンチメンタリズムを楽しめる好盤だと、僕は思います。
有名曲も数曲トラックされているが、
特にイントロのアレンジが独特で違う曲にすら聴こえてくる。
Vivo Sonhando(夢見る人)、Omoro-Samba de Orfeu(オルフェのサンバ)
Reza(祈り)、Mas Que Nada(マシュ・ケ・ナダ)みな然りである。
その辺の面白さが一時期、
クラブファンの買いあさりを生んだのかもしれない。
メンバー的にはオスカー・ブラウン・ジュニアや、
奇才シヴーカ(アコーディオン,ギター,キーボード)
との共演が注目される。
少々マニア度が高いといえるかもしれない。
しかし、佳作と呼ぶにふさわしい作品である。
是非お聴きになっていただきたい。