2002年2月
東京から飛行機で鹿児島空港に行き、そこからバスで(正確には金生町で降りて10分ほど歩いて)鹿児島港(本港北埠頭)に行った。 ここからジェットフォイルで種子島に行くのだが、 鹿児島空港と鹿児島港はかなり離れているので、鹿児島空港から直接種子島まで飛行機で行った方が効率はいい。 しかし、種子島発着の路線には割引きの利く席がなく、かなり高額になってしまうので、仕方なくこうしたのだ。
ジェットフォイルに乗り、出航すると、浮上の際に揺れるとのことで、シートベルトを締めるように言われた。 席も少し狭いし(飛行機と同じくらい)、やっぱり、短時間で移動するには、快適さが落ちるのは仕方ないのかなあと思った。 種子島に近づくと、着水の際にも揺れるとのことで、シートベルトを締めるように言われ、しばらくすると、種子島の西之表港に着いた。 西之表港は島の北にあるのだが、泊まるホテルは島の真ん中あたりにあるので、乗り物で移動しないといけない。 バスの本数は少なくかなり長く待たないといけないのだが、急ぐ理由もないので、バスで移動した。
ホテルに着いて、夕食後、携帯電話のiモードのニュース(大手新聞社の記事の抜粋。無料で見れる)で打上げの準備状況を確認していると、 明日の打上げは強風のため延期と報道された。ガーン〜 明日(日曜)帰らないといけないのに... 今回の旅行は、数日前に、晴れと予想されていることを確認して、少なくとも天候は大丈夫だろうと判断し、急遽手配して実施したものだが、 中止の要因に、まさか風があるとは思わなかった。 そういえば明後日の鹿児島から東京までの夕方以降の飛行機はガラガラだった筈だが、 携帯電話のiモードで確認すると、満席に近くになっていた。 どうも、東京からの団体客が居るようだ。恐らくジェットフォイルも満席に近くになっているだろう。 もし居残るのなら、明日は、真っ先に明後日の帰りの席を確保しないとヤバイことになるなあ、と思った。
次の日(日曜)、朝起きると、このまま帰るか居残るかを考えた。 月曜は会社があるが、丁度、発注元が依頼内容を検討している最中で、2〜3日以内に依頼が来るとは思えない。 そこで、有給休暇をとることにした(実際、火曜にも依頼は来なかった)。 一旦依頼が来ると忙しくなるので、打上げが、短い待機期間中に収まってくれたのは、非常に幸運だった。居残るとなると帰りの席が心配だ。 電話で明日のジェットフォイルの空席状況を尋ねると、空席は最終便にしかないとのこと。あったたけでも運がいいのかもしれない。 とにかくその席をおさえて、鹿児島港到着後に移動して間に合う飛行機があるか、携帯電話のiモードで確かめると1便だけあった。 幸い、その便に特割の席が残っていたので、今日の予約をキャンセルして、明日のその便の特割を予約した。 当時は、特割の購入期限も、当日の出発の何十分か前だったので、購入を当日まで遅らせれば当日キャンセルできたのだ(現在は不可)。
ホテルをチェックアウトすると、打上げ見物のできる場所は島の南なので、バスで島の南に行った。 バスを降りると、その町にある宿に空室があるか片っ端から電話で尋ねたのだが1つもなかった。 もしこの町で宿を確保できないと、島の北で確保してそこまで往復しなければいけなくなってしまう。 困ったなあと思いながらガイドブックを眺めていると、打上げが如何にもよく見えそうな場所に旅館があった。 どうせ無駄だろうと思いながら、空室があるか電話で尋ねてみると、あっさり、空室ありと返事が返って来た。 その場で予約してタクシーでそこに行ってみると、何と、私以外に客がいない。 確かに、部屋は和室、暖房は電気ストーブしかなく、トイレは水洗でなく汲取り式だったが、個人客ならそれでもいいと思う人がいる筈だが... 打上げ見物は、団体客しかいないっていうこと?
打上げ場所の近くまで散歩して(とはいったも立入り禁止区域の外だけだが)戻ってくると、丁度、夕食の時間になった。 この旅館はビジネスホテルより少し高いのだが、朝と夜の食事が付いている。 出された食事を見るとそこそこ豪勢なものだったので、電気ストーブしかなくてもそれほど損でもないかなと思った。 食事が終わると外はすっかり暗くなっていた。外に出て発射台の方を見ると、H-IIAロケットはまだ居ない。たぶん格納庫の中に居るのだろう。 ずっと眺めていても仕方ないので、その日は風呂(共用の小さい風呂)に入ってから部屋に帰って寝た。
次の日、朝食(昼食かと思えるくらいしっかりした料理だった)を済ませて外に出ようとすると、 「トイレをお借りします」「どうぞ」という声が聞こえて来て、男性が1人入って来た。宇宙開発事業団の人だった。 なぜここに?と疑問に思いながら外に出ると、玄関を出たところに宇宙開発事業団の人が2人ほどいて録音装置の調整をしていた。 録音だけ、撮影とは別のこんなところで行っているとは思わなかった。 周りを見ると、昨日は人も車も居なかったのが嘘のように、自家用車が何台か停まっていて、見物客が20〜30人ほどいた。 発射台の方を見ると、H-IIAロケットはすでに設置されていた。 ここから発射台まで3kmほど離れているが、湾になっていて間は海だけなので見晴らしはいい。その上今日は雲ひとつない快晴だ。 それに、打上げ当日は3km以内はすべて立入り禁止になっているので、ここは、これ以上は望めないくらいいい場所なのだ。 打上げまで時間があったので、旅館の居間に行ってテレビを見ていると、外から「打上げ時刻が延びた」という声が聞こえて来た。 テレビでもそのことが放送され、外国籍の船が立入り禁止区域に入り込んだのでそれがそこから出るのを待つためらしい。 私は、帰りは、バス停まではタクシーを使い、そこからバス、ジェットフォイル、バス、飛行機と乗り継いで帰る予定だが、 タクシーは電話で呼ばないといけないので、そろそろこちらに向かってもらった方がよさそうだ。 電話でタクシーを呼び、デジカメの調整をしていると、打上げ時刻になった。宇宙開発事業団の人がカウントダウンを始めた。
ゼロ・コールの直前に、発射台の下から真横に煙(正確には霧)が100mほど一気に走り、
ゼロ・コールとほぼ同時に、H-IIAロケットはゆっくりゆっくり上がり始めた。
これらの出来事のすべてが、音が全くしないまま起こった。
点火から10秒ほど経つと音が聞こえ始めた。
想像していたのと全く違う音だった。
私は、ゴーという音だと想像していたのだが、実際には、
バリバリバリバリという雷に近い音(ゴロゴロでない方の音)と、パチパチという焚き木のような音が、混じったような音だった。
話し声が聞き取れる程度の騒音だったので大したことないかと思ったが、3kmも離れていることを考えるとかなり大きな音だ。 数分経つと、見かけは米粒くらいの大きさになり、コースが少し水平になって来た。 テレビだと弧を描いて落ちて行くように見えるが、生で見るとまだ上へ上へと上がって行くように見える。立体的に見えるからか...
ロケットはまだ見えるが打上げは終わったので、もう帰っていいのだが、先ほど呼んだタクシーがまだ来ない。 ロケットが見えなくなってもまだ来ないので、バスに間に合うか心配になって来た。策を考えているとタクシーがやって来た。 大通りから旅館までの間の道は狭い上に長いのだが、見物客の帰りの車との行違いに手間取ったそうだ。 予定のバス停で乗り継げない場合は、バスを追いかけてもらい、追い越せた次のバス停で乗り継ぐつもりだったが、 予定のバス停に着いたのは、バスの発車予定時刻の少し前だった。結局、バスは少し遅れてやって来て、余裕で乗れた。 このあとは特にトラブルもなく帰った。
次の日、2つの衛星のうちの1つの分離に失敗していたことをニュースで知った。業者(といっても大手だが)が配線を間違えたらしい。 詳しい人の話では、ロケットというのは、大抵、土壇場まで改良のために設計変更しているそうで、 最後の最後で変更内容の伝達ミスがあったのではないと言っていた。 この分離の失敗がなければ完璧だったのに惜しいなあと思ったが、 今回の主目的は、ロケットの試験の方で、ロケット自体は成功したのだから、大勢に影響ないか... と思った。