この作品は基本的には伝記のスタイルであるが、構成は『荒野のおおかみ』に劣らず非常に独創的である。まず編者の序言があり(この序言だけ難解なので、飛ばして読むのも可)、それから主人公ヨーゼフ・クネヒトの生涯が語られ始められる。この生涯がこの作品のメインである。それから、主人公が書いたとされる詩が数編と、「履歴」と呼ばれる一種の短編小説風のもの3つが、クネヒトの遺稿という形で巻末に収められている。(とはいえ、これがこの本全体の4分の1を占めており、この小説のれっきとした一部分をなしているのである。)
この角川文庫版は限定復刊したもの故、今では古本屋でごくまれに売っているのみである。この井出氏の訳は旧字体が多すぎるため慣れないと読みにくいので、角川書店にはこの点を改めた上で再復刊を希望したい。巻末の井出氏の丁寧な訳者解説はヘッセ自身の手紙などの引用などもあり、作品の理解を深めてくれるのでなかなか良い。
あるいは新潮社でせっかく高橋健二氏の訳があるのだから、新潮文庫でも出版してほしい次第である(高橋氏の訳の方が私は良いと思っている)。日本でもっとも多く読まれているドイツの作家なのだから、売れないことはないはずだ。しかし現実的に言えば、読みたい人には図書館などで『ヘッセ全集』(新潮社版と三笠書房版あり)を探して借りることをお薦めしたい。
※つい先日(2003年12月)、「ブッキング」という出版社から高橋健二氏の訳がハードカバーの単行本という形で(限定?)復刊したばかりなので、欲しい人は『ガラス玉演戯』で検索してみてほしい。