第一巻の始めの方から名前だけは何度も何度も出てきていましたが(響生が見ていたTVにも)、登場人物の誰かが生身の榛原と相対する場面や榛原自身の描写がなされたことが無かったので、どんな男なのかとやきもきしていましたが、3巻目にしてやっと出てきてくれました。
(ま、実際には2巻のラストで出てきているのですが、それは「あ、あの榛原が客席にいる!」と響生一人が気付いた程度の登場でしたからね)
彼の生み出した様々な戯曲と演出の飛びぬけた秀逸さが、読んでるこちらが気恥ずかしくなるほど一巻から延々と語られていましたが、本人が登場するにあたって、やっと現実味を帯びてきた感じです。榛原作品の凄さをどんなに言葉や文章を尽くして褒めちぎったところで、それを創作する人物像を、そういったものを創作しうる力や人格の持ち主として「登場」させなければ説得力が無いですからね。
確かに個性丸出しの人物。一般人が想像する、いわゆる『天才』像をそのまま具現化したような人ですね。(この方、どうも桑原氏お気に入りキャラのようですが)
それにしても、響生が本書で初めて榛原と個人的に口をききますが、これまでの響生の榛原への執心ぶりを顧みると「嘘だろ~っ!」と思わずにはいられません(*_*;
一度も個人的に会ったことがないような人にあそこまで劣等感を抱くかね、ふつう・・・。
ともあれ榛原の登場により、ケイと響生、そして本作品そのものがやっと本道に乗り出した感じの巻です。
ひとりひとりの想いが違うことが、読めば読むほど分かって、観客である読者は息もつけずに必死に見守るしかできないのだ。
それよりもこの巻はむしろ、榛原と響生の会食シーンから、響生の作品に対する榛原の批評、それを目の前で聞いた響生の取る行動(次巻にもなだれ込みます)、ケイの衝撃の秘密・・・といった中盤以降の展開に見所があります。
榛原の食事シーンは、意外な収穫という感じです。彼が大変な大食漢だというのは、物凄く納得できるような、意外なような・・・。
それにしても桑原氏は、『炎の蜃気楼』の直江をはじめ、「十分な実力を持ちながら、それをさらに上回る『天才』の存在に苦しむ秀才」的な男を書くのがお好きなようですね。
もちろん、それが桑原氏の生み出す魅力的なキャラクターのひとつなのですが。『炎の蜃気楼』の方はそれでもその『秀才』と『天才』が愛しあってもいたから、途中から直江の苦しみは別な方向へと転嫁されましたが、響生と榛原の場合はそれはちょっと有り得ない展開ですし。
いずれにせよ、響生の劣等感や苦痛は、『炎の蜃気楼』の直江よりもずっと、「本人の考え方の問題」的な要素が強いので、今後彼がどのように自分自身を克服していくかが注目点の一つですね。
ファンにとっての作者は一人でも、作者にとってのファンは大勢である。
一人一人をかまっていては、それはただの趣味や道楽で、仕事として成立しない。
ましてや傑作になるはずがない。
これまでの連城は足掻きながらも足掻き~~きれ~~ていなかった。
それを榛原が見破った。
他人の作品を読んで負けたと言う前にまず書け、と。
これからの連城に期待である。~~