が、脳の研究を続けその目的を知るブザン氏の自己啓発コースを、イズラエル氏の営業スキル用にアレンジ(融合というべきかも)したというような内容で非常に興味深い。また、「頭がよくなる本」と同様、比較的原著に忠実に訳されているように感じるのも好感が持てる。
具体的な構成は、ブザン氏の得意の脳の特性、創造的キーワード・想起的キーワードなどの言葉の定義、記憶の鍵として「映像化」と「関連付け」に関する話などを元にして、マインドマップやその応用方法としての専門知識の身につけ方(フォトリーディングのシントピックリーディングに考え方が近いのかも。よりとっつきやすいとは思うけど。)、顧客プロフィールの作成というような具体的なツールとその詳細の話が展開されていく。そしてその合間に、それらを身につけたり定着させたりするための70のトレーニングが挿入されているというもの。
ちなみに、紹介されているツールで主なものは「マインド・マトリックス」「五感営業法」「マインドマップ」「営業記憶法」「営業コンパス」など。こうして日本語にして並べると「ちょっと・・・」というようなものもあるかもしれないが、それぞれ非常に興味深いものだった。
「こちら、焼きそばになります」は「こちら、焼そばでございます」と言うのが正しい。
「ご注文の品、以上でおそろいでしょうか」は「以上でそろいましたでしょうか」と言うべき。(そろえるのは店側だから、自身に尊敬語を使うのはおかしい、というのがその理由。)
確かに巷でやたらと耳にするこうしたマニュアル敬語の奇妙キテレツさを簡明に指摘しています。
ただし私自身、反省しながら読んだ箇所も中にはありました。
「大変お求めやすくなっております」
:「お求め」は名詞ですから、動詞の連用形に接続するはずの「やすい」という語とは結びつかない。したがって「お求めになりやすいお値段となっております」が正しい表現。
「この割引券使えますか?」「大丈夫ですよ」
:「大丈夫」というのは上から下への物の言い方なので、「お使いいただけます」か「どうぞご利用ください」が正解。
この二つは私も使ってしまうかもしれないという恐れを感じながら読みました。こういう表現をあまりにも毎日浴びているうちに私の言語感覚も麻痺してしまったようです。
以前読んだ「お言葉ですが… (9)」(高島俊男著/文芸春秋)によれば、「こちらケチャップに“なります”」、「1000円“から”お預かりします」といった特異なマニュアル敬語の元凶は、リクルート社が約20年前に制作した接客ビデオだとか。となるとこうした奇妙な敬語は既に80年代から日本語に根をおろしているわけで、今後さらに拡大増殖しながら世代から世代へと継承されていくのではないでしょうか。もはや簡単には日本語から追い出すことはできないといえるでしょう。
こういう本が必要な社会に私たちが生きているかと思うと、なんとも暗澹たる気分にさせられます。