アメリカ政治といっても新聞の政治面を読むような人事ばかりの業界話ではない。銃規制に反対する少数の母親たちがはじめた運動がネットを通して強大な影響力を持つに至った話や、華やかな大統領選のキャンペーンを演出する選挙コンサルタントたちがインターネットをどう選挙戦にとりこんでいるかなど、豊富な事例は興味が尽きない。
日本では縁遠いと思いがちな政治や政治家との距離もインターネットによって縮まれば、関心や期待感も高まるのではないかという高揚感が読了後に残った。
「Eポリティクス」という書名から、どこか硬苦しい印象を持つかもしれないが、インターネットが政治のスタイルにも影響を及ぼしはじめた躍動感あふれるアメリカ社会の新しい動きを伝えている。テンポのある明快な筆致で、まったく予備知識のない人でもぐいぐい読ませてくれるだろう。
個人的に興味深い・面白いと思った点
1.歴代大統領が、表沙汰にできないような調査(特に大統領の個人的理由に基づく)を内密にFBIに依頼することが度々あったことの暴露。特にアイゼンハワー政権とジョンソン政権において顕著であったとのこと。
2.フーバーが自分自身やFBIという組織のPRのために様々な手段を駆使し、またそのために職員らを動員したこと。特にメディアに対して、FBIから格好のネタを流すことと引き換えに懐柔することなど、今日にも通じる。
また、P112の記述のように「名誉学位」にこだわり、様々な大学からそれらを漁ろうとする姿は、日本の某宗教団体トップの姿を髣髴とさせる。
いずれにせよ、FBIの実績・成果は、フーバーが推進したメディア工作によって相当誇大に宣伝された「虚像」であったらしい。
3.フーバーも、あの「フリーメーソン」の会員であった事実の暴露。しかもメーソンの最高階位である「第33階位」になるにあたり、同じく会員であった当事の大統領トルーマンと確執があったとの記述は注目に値する。いわゆる「陰謀論」で片付けられるレベルを超えると思う(いわゆる秘密結社内の序列が、現実世界の行政組織トップレベルの人々の重大関心事であったという事実)。
4.著者自身が指揮した、当事の共産圏諸国のスパイとの対決の部分(第11章)。ソ連側スパイとなった海軍下士官の摘発や、逆に共産圏国の外交官を懐柔して協力者に仕立てるあたりの記述はなかなか今日深い。
5.職場でも私生活でも出世のために上司のご機嫌をうかがう人物や、コーヒーや酒の席で上司や組織の噂話や悪口を言うなど「日本の会社と変わらないな」と思わされる記述。
読む上での注意点
1.筆者(サリバンの方)は、一応FBIの重職にいた人物であり、その関わったであろう機密の性質上、この本に記述された内容は事実関係について改変がなされているであろうこと。多少は繭に唾して、鵜呑みにはしない姿勢は必要であろう。
2.フーバーによって地位を追われたという事実関係から、著者のフーバー評は怨恨を含んでいるため、多少割り引いて見る必要もあろう。