表題作「サッカー戦争」とは、1969年、サッカーの試合をきっかけにホンジュラスとエル・サルバドルとの間に勃発した100時間の国家間戦争を現地取材したもの。通信記事というよりは文学的な趣を持つルポルタージュです。
攻撃が始まり、彼は停電の中で第一報をタイプライターで打ち、それを持って夜影に乗じて郵便局へと向かいます。戦時下のホンジュラスからポーランドへテレックスで記事を発信するためです。このくだりは戦争の緊迫感がひしひしと伝わってきて、思わず引き込まれます。
もちろん「サッカー戦争」はサッカーの試合で残った遺恨を晴らすことを唯一の目的として始められた戦争ではありません。カプシチンスキは前線リポートを締めくくった後に、この戦争がエル・サルバドルからホンジュラスへやって来た不法就労農民をめぐる両国間の感情のもつれが引き起こしたものであることを、きちんと紹介しています。
国境を接する隣人同士であるからこそ、近しい関係を築くこともあれば、激しい軋轢を生むこともある。それがサッカーという“小戦争”をきっかけとして、実際に国民同士が干戈を交える事態へと発展したのが「サッカー戦争」なのです。
本書によれば「戦後」に両国間で行なわれた試合の3回戦は中立国メキシコで厳戒態勢の中で行なわれたとのこと。
本書が描く時代からはすでに35年もの日々が経過しています。それでも、先ごろ2005年3月に行なわれた北朝鮮とイランとのW杯予選の顛末を見ると、何かきな臭いものを感じてなりません。
日本は間もなくアウェイでの北朝鮮戦を迎えます。そんな時期に本書を手にするのも、決して大げさなことではなく、意味あることではないかと思うのです。