全般的には時間軸を基準としながらも,所々で切り口を変えて帝国海軍の足跡を辿るという手法で,人物・エピソード・著者の批評などが随所に散りばめられており,通り一遍等な歴史ドキュメントなどと違い読者を退屈させません。特に太平洋戦争開戦前の軍政面における人物に関する記述は詳細で,批評も独自のものがあります。この時代を総括的に把握されたい方には一読の価値があるでしょう。
随所に現れる,指導層への批評は概して批判的です。零戦搭乗員として,特攻まで経験させられた著者の経歴からすれば当然でしょう。
ひょっとすると日本海海戦の記述が無いことは,このことに絡んでいるのかもしれません。実際の軍令部は成功体験に傾倒した,とされる訳ですがこうしてひたすらに戦争の経緯だけを見ると,一体何を目指していたのか…と少し空虚に感じられるのです。
話は変わりますが戦争指導に対する批評書の類は巷間数多存在します。しかしながら,じゃあ実際どのようにという観点において正鵠を得た論旨を未だに目にすることはありません。一参謀課長も認めているように開戦した時点で負け,だったということでしょう。もちろん開戦に踏み切らなければ負けはありませんが今の日本の繁栄もなかったでしょう。アメリカやソ連の支配を受けていたかもしれません。
我々の世代はこのような批評を元にして,日本をどのように方向付けるのが正しかったのかということを常に意識すること,日本の国家戦略を模索し続けることが求められます。そしてそれは今の日本(または自分)をどう方向付けるか,という試行錯誤において貴重な擬似体験となるでしょう。それが歴史に学ぶ,と言うことではないかと思うのです。