大津事件(巡査が訪日中のロシア皇太子に斬りつけた)、八甲田山の雪中行軍、板垣退助の暗殺未遂、ハレー彗星の接近、乃木大将の殉死など、有名な事件の発生当時の報道が読めるのは大変に興味深い。
34年間の朝夕刊(計算すると約2万4000部!)をひっくりかえして4~500本の記事をピックアップしたその労力に敬意を表したい。ぱらぱらめくるだけでも、明治の時代の雰囲気が伝わってくる。持っていて損はない一冊だと思う。
第一章、第二章は実際に掲載された記事を紹介して、いかに戦意高揚、軍部協力記事を書いたかを解説する。
第三章は戦後の朝日責任者の責任のとり方、太平洋戦争前の朝日の記事の内容、戦時下の言論統制、軍・政府に抵抗した新聞・雑誌を紹介。
あとがきは著者の対談で、新聞の体質は今も変わっていないと指摘する。
朝日は今でこそ反戦の牙城のような体裁をしているが、戦前までは軍部の片棒を担いだ日本を代表するマスコミでありながら、まるでそんなことはなかったかのような振る舞いをしていると告発している本です。
戦争が始まってしまえば、たとえ戦前までは戦争反対でも国威発揚記事を書くのは国策としてやむを得ないと思うが、朝日に限らず日本のマスコミは満州事変以後から部数増加という商売のために、戦争をあおる記事を書き始める。
太平洋戦争末期、日本が敗れるのがほぼ間違いない状況になっても真相を国民に知らせず、結果として戦争が長引いて多くの犠牲者を出したのは朝日を含むマスコミのせいではないかと指摘する。もし本気で戦争を終わらせる気概が新聞の責任者にあったなら、東条内閣総辞職のときに一斉に書き立てて講和の方向へ本格的に乗り出せたかもしれなかったが、新聞の責任者にその勇気はなかった。
結局朝日はもちろん読売など、戦後もろくに戦中の自らの行動・言論に責任をとらず今日に至っている。戦後60年経って、今現役の社員はみな戦後生まれだろう。だったら、今こそ戦前、戦中の自らの新聞社の行状を点検して読者に披露してもいいんではなかろうか?
以下の4つのテーマで、アメリカが辿った歴史の光と闇とを紹介した内容は単なる薀蓄に終わらず、アメリカという国の成り立ちの複雑さをうまく伝える内容となっており、謂わば「アメリカ研究」といった方が分かりやすいかもしれません。
①歴史の真実と虚偽
②政治の栄光と悲惨
③人間の平等と差別
④社会の表層と深層
特にインディアンに始まり、黒人、ユダヤ人、アイルランド人、イタリア人、日本人、共産党員と常に社会の底辺に位置する人間たちを虐げ続けてきた歴史の様は、まさに現在のイスラム教徒を犠牲者として社会的な鬱憤のはけ口としている、アメリカという国の特徴がよく理解できます。
私も特に反米主義という訳ではありませんが、著書内でも触れられているセオドア・ルーズベルト(Theodore Roosevelt 1858-1919)の以下の言葉が、今のアメリカの主張する「自由」という概念を良く表しているように感じ、どうもなぁ~という気がしないでもありません。
『個人主義的な物質主義が荒れ狂った時代で、個人の完全な自由は・・・実際問題として、強者が弱者を食い物にする完全な自由を意味していた』