過去と未来が交錯するので、ちょっと話がこんがらがりそうになる。
そう、タイムマシーンに乗って、過去に戻るお話しなのだ。
ユウキは、冷凍睡眠カプセルに入って100年後に目が覚めた。
もう、両親も兄もこの世にはいない。
一人ぼっちだと、寂しくなったユウキ。
でもユウキをひきとったメイ博士は、タイムマシーンを作っていた。
試作中のタイムマシーンに乗って、家族に会いに行くことをすすめられたユウキ。
いざ、過去に戻ると、交通事故で死にそうになったユウキの両親と兄は、その2年後に飛行機事故で死ぬ運命だった。
それに気づいたユウキは、過去を変えようとした!
未来に戻ったユウキには、ちょっと違った未来が待っていた。
不思議な不思議なお話だ。
既に他のレビューにあるように、第一章のキクイムシの語るノアとその一族の姿や、手紙形式で書かれた、「人間の敬虔さなんてこんなもんさ」という作者の声が聞こえてきそうな第八章は、作者のウィットに溢れ、文句無しに楽しめる。
しかしこの小説で特に際立っているのは第五章だ。
実際に起きた凄惨な事件を画家が絵画にしていくプロセスを考察したこの章では、芸術家が自分の創造力に基づいて、何を捨て、何を拾い、何を加えていくのかが詳細に検討されている。ここで書かれた芸術家の創造力と理性の考察には本当に圧倒されてしまう。と同時に、バーンズ自身もこういった素材を芸術へと昇華させるという同様のプロセスをたどってこの作品を書き上げたと思うと、この本の他の章もさらに生彩を放って見えてくる。
読んでいて思わず吹き出してしまうような滑稽さと、背筋がピンと伸びるような崇高さを、これだけ見事に一冊にまとめた小説には滅多にお目にかかれるものではない。
これまでの人生で読んだ本の中で、間違い無くベスト5に入る一冊だ。