合唱、ソロ歌手、器楽・・・どれもハイレベルの安定した美しい演奏で、おそらくバッハ自身たちの演奏水準をはるかに上回るものでしょう。上記の名曲も非常にウマく演奏されていますが、私には歌詞の内容が今一つ心に切実に伝わってこない感じがするのです。
例えば第124番のテノールのアリアでは、プレガルディエンが美しい声でとてもウマく歌っているのですが、遅いテンポと迫力にかける気の抜けたようなオケの伴奏で「激しい死の一撃が感覚を鈍らせ、身体をのたうち回らせるとき」という歌詞にそぐわない表現になってしまっています。コープマンはこの曲でむしろ「不安」を表現したかったのかもしれませんが、激しい「鞭打ち」を模したような弦楽伴奏で「死の一撃」を表現していたリヒターやアーノンクールの演奏の方が心を奪われます。
ここまで順調に進んでいたコープマンによるバッハ・カンタータ全集ですが、この第12巻発売後に発売元のワーナー側が一方的に全集の中断を宣告してしまいました。コープマンは何としてでも全集を完成させる気構えで、ついに今年になって自主レーベルを立ち上げて第13巻を発売したのです。
異稿も収録され、世俗カンタータも含むという画期的なこの全集は、何としてでも完成していただきたいものです。私は一バッハファンとして、コープマンに期待し、応援しています。がんばれ、コープマン!
第105番(アーノンクール)・・・歌詞・音楽とも聴く者の魂をゆさぶる傑作。アーノンクールも真摯な指揮で、聴く者の期待に応える。注目のソプラノ・アリアは少年が苦しみながらも(?)よく健闘している。
第106番(レオンハルト)・・・「哀悼行事」用の初期作品。バッハの全教会カンタータの中でも屈指の名曲で、録音数も多い人気曲。リコーダーとヴィオラ・ダ・ガンバの古風で渋い響きが心をシビレさせる。レオンハルトの演奏はやや遅めのテンポで、じっくり、しみじみとした深い味わいがある。
第110番(アーノンクール)・・・クリスマス用の作品。冒頭合唱は管弦楽組曲第4番(BWV1069)序曲の転用。使用される楽器の種類も多く、華麗で豪華な印象を受ける。演奏も活気があって楽しい。
第115番(アーノンクール)・・・木管楽器が可憐に彩る、美しい作品。晴れやかな冒頭合唱、厳粛なアルト・アリア、瞑想的なソプラノ・アリアと多彩な魅力がある。アルト・アリアではエスウッドが妖気あふれる(?)歌唱を聴かせ、ソプラノ・アリアではシュタストニーのトラヴェルソとアーノンクールのチェロ・ピッコロとの絡み合いが渋くて熱い。