ペン字検定合格のための自宅学習講座の広告漫画なだけに、9コマの漫画には必ず「バインダー式の教材が」「一日20分の勉強で」「一級合格者の4割が日ペン出身」と煽りが入れられ、「綺麗な字でモテモテ」などのオチがつく。パソコンが普及した今こそ連載を再開してほしい作品である。
ようは通販みたいなもので、本質的にはジャパネットや深夜の通販番組なんかと変わらないのだけど、それゆえに面白く、人気の秘密は、深夜に外人がマッスル系新商品を宣伝している通販番組をみてしまう感覚に似ているのかもしれない。内容はお決まりで、よくよく考えるとたいして面白くないような気がするのだけど、引き込まれてしまうのだ。
また1972年から1999年まで4代にも渡って作者=キャラクターを変えながら続いた「美子ちゃん」には、大河ドラマ的な壮大さを感じすらしてしまう。
当時の漫画を4代のキャラクター順にフルカラー掲載し、漫画と漫画の間をキャラクター分析や作者のインタビューなどで埋めている。
もちろん、リアルタイムで「美子ちゃん」を読んでいた人は違う感想をもつのだと思うけれど、知らなかった人でもそれなりに楽しめるのは、漫画自体よりも、漫画を取り巻く状況そのものが奇妙で面白いことを示しているように感じる。ペン字検定というメジャーとはいい難い検定の講座を広告するために少女漫画に27年間も代を変えてまで漫画を載せていた。なんだかわからないけど、すごい。
どんなものか見たくはなりませんか?
本書の短編どれをとっても、少ないページ数の中で、英国ののどかな田園風景、格式のあるお屋敷や贅沢な子供部屋、優雅なティータイムなど情景描写が豊かで驚く。英国らしい風景が展開される。少女が登場する物語が多いのもこの著者の特徴だろう。少女たちがもつ無邪気な残酷さや、好奇心いっぱいの視点が物語の中で重要な役割をになっている。感情の爆発などもリアルすぎて怖いくらい。同時に大人の女性の描き方も最高に巧い。有能なお針子やガヴァネス(女性の家庭教師)など、時代を先取って外に飛び出していく女性たちの姿が生き生きと描かれる。でも彼女たちの有能さに安心してはいけない。ボウエンの短編の中ではいつも、彼女たちは秘密を抱えていたり、恐ろしい事実を目撃したりするのだから。
読みながら、ダフネ・デュ・モーリアやパトリシア・ハイスミス、クリスチアナ・ブランドなどを思い出した。冷徹なまでに鋭い観察眼と、物語の語りの巧さで「意地悪」で意外なブラックな後味をもつ短編ばかりだ。20篇収録されているので、じっくり楽しめる。お買い得な本だと思う。