ソ連時代には中国人や朝鮮人がロシア極東からほぼ追放されており移民も禁止されていたため、人口の浸透圧は存在しなかった。しかし、著者によればソ連以前の時代にはロシア極東に多数のアジア人居住者が存在し、安全保障上も問題になっていたという。
この本ではロシア帝国極東地域における日本人・朝鮮人・中国人(漢族+満州族)の移民や出稼ぎ労働者の経緯が豊富なデータとともに分析されている。ロシアに割譲された地域に残留した清国人は清の徴税官に納税していたこと、第一次大戦前のロシア極東の総人口100万人のうち中国人+朝鮮人で約15%を占めていたこと、ウラジオストクの総人口の三-四割を中国人が占めていたこと、日本人は少数だが都市部に集中し日本人街を形成していたこと、義和団事件や日露戦争、ロシア革命がこれらの外国人共同体に大きな影響を与えたことなどは非常に興味深い。
現在のロシア極東は、一世紀前にロシア帝国が直面していたのと同様の、安価な中国人労働力の導入による利益と黄禍論のジレンマに悩まされている。一世紀前とは異なりロシア極東が少子化と社会減による人口減少に悩んでいることは問題を更に深刻化させている。ハバロフスクの市民団体「再生二十一世紀」が北方領土の返還による対日関係改善を主張するのもその深刻さの反映であろう。日本の安全保障や北方領土問題にも深く関係するロシア極東情勢に関心を持つ者に必読の書である。
取り扱っている時代は20世紀初頭までと
ややそれについては不満があるが、
現代シンガポールを取り扱った書は数少なくあること、
そして何より普通の歴史書では見落とされがちな
19世紀シンガポールでの生活が詳細に記述されており
生き生きとした当時の実態を掴む上では
コンパクトで読みやすい点は買いだろう。