38pの、敦煌103窟南壁西側下の壁画と正倉院の琵琶に描かれた騎象奏楽図の類似の指摘は刺激的です。日本の枯山水・石庭が、中国の失われた宋元の庭と関係があるかもしれないという仮説は面白いと思いました。山水画によく登場する漁師のイメージの持つ意味も、かなり考察されています。
ただ、118Pで、范寛「渓山行旅図」を「典型的な孤峰」というのは少しおかしいと思います。67p,今はメトロポリタンにはいった「渓山図」を取り上げていますが、偽作かもしれない作品は例証にしないほうがよかったでしょう。
第2部は少し羅列的ですが、鴛鴬の雄の飾り羽の観察から、法隆寺の絵を日本製と推測するところは面白い。また、絵画を生活の中での機能としてとらえる視点もあります。
第2章第3節で正倉院の「舞踏奏楽童子」(蘇芳地金銀鼓楽絵箱:中倉)を「蓮と子供」の例であげていますが、葉は牡丹みたいです。童子が踏んでいるのは、蓮座ではなくマットだと思います。このマットの上での舞踏は、敦煌壁画など多くの例があるようです。
同音異義語による吉祥シンボルについて、同音異義が北京語、上海語、廣東語、さらに古い時代の言葉で 成立したのだろうか? それとも、いったん成立したら、一富士二鷹三なすびのように訳がわからなくても受け継がれたのでしょうか?
本書ではそういった、日本の美術館でコレクションする世界の名画がカラー写真付で解説されています。ピカソ、ミロ、ダリ、ボナールなどなど。ただ名画をリストアップするのではなくて、著者が厳選した絵画が15点が、それぞれ10ページ近く割り当てられて解説されています。画家のプロフィールも掲載されていて、美術鑑賞の入門書としてもお勧めです。
著者は日本現代美術の代表的アーティストでもある赤瀬川原平。この人、若い頃に過激な前衛芸術で世界中に名を馳せた作家ですが、その後小説家として芥川賞を取ったり、写真家(およびライカマニア)として活動を続けたりする多彩な人です。エッセイストとしても評価されています。そういう人が書いてる本だから、ものすごく読みやすい!高尚な芸術論で理論武装することなく、名画を前にして素直に感じる気持ちを素直な文体で表現しています。
ただし、最近は印象派が好きというすっかり丸くなった著者の好みによって掲載される絵画が選ばれてますから、近代絵画しか取り上げられていません……日本には現代美術にも素晴らしいコレクションがあるのですが。
いわゆるエロチックな絵を描いているが、他の春画と比べてこの生々しさはどうだろうか。風景画を同時代の画家と比べてもやはり感銘を受けるほどのオリジナルを感じることができるが、春画は異様なまでのこだわりだ。英雄色を好むとは昔から言われる格言だが、画家がエロを描いて見せ付けられると、そのショックは実に大きい。
この指や細部、背景へのこだわり。浮世絵は、ペン絵のように線を増やす方向の表現が制限される。北斎はそれをデフォルメと構図、そしてポーズによってこの生きているような生命力を獲得していることが、たくさんの例によって示されている。
エロい、エロすぎ!天才といわれれば凡人の私は黙るしかなかった。
紹介もありで楽しく一気に読める一冊です。
いつか、必ずパリのオルセー美術館を訪れたいと
この本を読みながら再確認しました。